ボギーとあい  


 フロントはカーテンで中が見えない。トイレを借りてそのまま出て行く私を隙間か隠しカメラで見ているかしら?何だかとても恥ずかしかった。
 エレベータが開き、中年のカップルが手を組んでそのまま駐車場側のドアから出て行った。おそらくこのモーテルは部屋の機械で精算するシステムなんだろう。何だかとてもみじめだった。
 もし呼び止められたら、彼氏との待ち合わせと言い訳するつもりでフロントの前を通り、駐車場に戻ると目の前をマークUが通り過ぎた。仲の良さそうなさっきの二人。何だかとても腹立たしかった。


「長かったな」
 車に戻るとボギーが不機嫌そうに言ってエンジンをかけた。何てデリカシーのない男!
 もともと若い男の子って好きじゃない。幼稚で粗雑で自分が偉いって思い上がってる。その点で高校1年の担任だった森部先生は優しかった。あたしの告白を真剣に考えてくれたし、我がままを何でも聞いてくれた。あたしが卒業したら離婚して一緒になるとも言ってくれた。
 奥さんの妊娠が判って別れる事になったけど、最後まであたしを大切にしてくれた。
 「待ってよ!」
 車が海岸線に戻り、私は振り返った。
 「何だよ」
 「レストラン、通り過ぎちゃったじゃない」
 「あんな高そうな所、入る気しないよ。もうさっきの駐車場で休めたしな」
 何だかとてもむかついた。
 「そうよね、車もボギーも場違いだわ。追い出されるかもね」
 「何だよ、あいのミニスカートだって似合わないさ」
 「見ないでよ!」
 「見る気ないよ、小学生と間違えられるぜ」
 「喉が渇いてるのよ!」
 「出したら入れるんか?ほら、自動販売機があった」
 道の脇にあるコカコーラの自動販売機の前でボギーは車を止めた。
 「何飲む?奢るよ」
 少しは気が咎めてるのだろう、言い方が優しい。
 「ビール」
 「ないって」
 「見れば判るわよ。私はビールが飲みたいの」
 「いい加減にしろよ」
 また苛立った声に変わった。
 「もう帰るわ。近くの駅に行って」
 「判った」
 何だかとても悔しかった。チャットでは明るくて思いやりありそうな感じだったのに何よ、これ。折角、超ミニと気に入りのブラウスで決めてきたのに、猫に小判だったわ。クーラーもないおんぼろサニーは笑える。私より6歳上だけど、本当にガキ!
 「途中でビールの自動販売機があったら止めるよ」
 暫く走ってからボギーがなだめるように言った。
 「いいの、今朝は朝まで飲んでたから迎え酒のつもりだったけど、もう吐き気はないから」
 「いいご身分だ、それでトイレが近かったわけだ」
 「まったくデリカシーないわね、失礼だわ」
 「育ちが悪いもんでね」
 何だかとてもうんざりだった。こんな馬鹿とは二度とチャットしない!
 「それは勿論ね、あと性格と頭の中味かしら?悪いのは」
 「3つだけか、高い評価、感謝」
 「どういたしまして。容姿や家柄は気にしないたちだから、その3つだけなの、判断材料」
 ボギーの表情が歪んだ。
 「どうせ、そうさ、僕は馬鹿なはずれ者だよ!融通がきかない、協調性がない、高校中退で耳まで悪い!社会不適合者さ、軽蔑するならしろよ」
 「ボギー・・・」
 「でもさ、チャットならそんな僕でも受け入れてくれる。一緒に遊んでくれる、嬉しかったんだ。そうだね、オフしちゃいけないんだ・・あの文字だけの世界なら、僕は僕でいられたんだ」
 はずれ者、私と一緒だ・・ボギーは私の仲間・・
 いつもチビだブスだってからかわれた。生意気だってクラスメートの苛めにもあった。私を受け入れてくれたのは森部先生とチャット。
 「私・・」
 「いや・・つい興奮して馬鹿な事を言っちゃた。駅はもう少し先だと思う」
 「もういいの、止めて、道脇に」
 「そうか・・・君ならヒッチハイクでもすぐ車が止まるさ」
 ボギーは広めの場所を見つけて車を止めた。私はシートベルトをはずした。ボギーはハンドルを握ったまま、そっぽを向いていたが、私が外へ出ようとしないので訝しげに顔を向けた。ボギーは驚いただろう、そんな彼の顔を引き寄せ、私は唇を重ねた。
 「あい・・どうして」
 私はそのまま彼に上半身を投げかけた。
 「私達、いい友達になれる筈よ・・理解し合える本当の友達に」
 「そうかな・・」
 戸惑ったように彼は私を見た。
 「絶対よ、やり直しましょう、今日の始めから。私達、誤解してすれ違いしただけ。私の事、嫌い?」
 「さっきまではね・・」
 「じゃ、今から・・楽しいドライブしよ」
 「うん・・あいがよければ」
 なんだかとっても嬉しかった。ボギーの肩に頭を置き甘えてみた。彼は片手を私の肩に回してサニーを発進させた。


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