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○リサイクル倉庫ワンモア
福岡県久留米市郊外の筑後川沿い、元は物流会社所有だったリサイクル倉庫ワンモア。敷地は広く、倉庫の近くに3階建の社員寮がある。
深夜、倉庫事務所入口傍の犬小屋を出て秋田犬ツーは草が伸び放題の庭を通り、社員寮の3階を見上げる。中央の部屋に灯が点く。
○寛太の部屋
1DKのフローリング部屋。携帯からサイレンの音。ベッドで寝ていた高木寛太(31)、枕元の携帯をとって画面を見る。04:12と送信者不明の表示。眉を顰めて耳に当てる。
寛太「誰だ」
正義「オレだ」
寛太、溜息をついて声色を使う。
寛太「この電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめの上」
天野正義(45)の怒鳴り声が遮る。
正義「ふざけるな、それが恩義あるオレへの態度か!」
寛太、うんざりした様子。
寛太「どんな恩義ですか。受けた迷惑は数知れませんけど」
正義「オレに勝って名が売れた。オレがワンモアを離れたから、今そこに居られる」
寛太「それを恩義と言いますかね」
正義「お前を殺すのは簡単だった。生きていられるのはオレの温情だ」
寛太「嬉しくて欠伸が出ます」
正義「まぁいい。特別に調査の仕事を任す」
寛太「お断りします。ボスからマサさんとは関わるなって厳命です」
正義「根津は、オレとお前の長く深く強い友情の絆を知らない」
寛太「腐れ縁は切りましょう」
寛太が携帯を切ろうとする。慌てて正義が声を荒げる。
正義「待て、照美をワンモアから引き抜いてもいいのか」
寛太「破門の身でしょう?下手に動けない筈です」
正義「香港で大きな仕事をやった。もうすぐ破門は解ける」
寛太、ベッドから出て机の引き出し奥から煙草の箱を取り出し、1本引き抜く。
寛太「轟のご隠居を動かしたんですか」
正義「そもそも、役目を果たしたのに破門は理不尽なんだ」
寛太「味方も潰してですか?関東と関西の協定破棄になるところでしたよ」
正義「くだらん喧嘩は両成敗」
寛太「もういいです。何処からですか?」
正義「マニラだ。沖縄より暑いぞ」
寛太「沖縄に行った事はありません。名前を変えているんでしょう?」
正義「湯田十三、中国じゃゴルゴで通っている」
寛太「九龍の乱射はマサさんの仕業でしたか・・」
寛太、キッチンに行きガスレンジを点ける。
正義「照美はオレに従う。だからお前の携帯も分かった」
寛太「脅したんでしょう」
正義「あのなぁ、追い詰められていたのを救ってワンモアに置いてるんだぞ。感謝されても恨まれる筋合いはない」
寛太「誓約書をとっているそうですね」
正義が言葉につまる。寛太はガスコンロで煙草に火をつけてガスを止める。
正義「照美が喋ったのか?」
寛太「サトルです」
正義「あの野郎・・戻ったらただじゃおかない」
寛太「今は僕の下で、手を出させません。新撰組のご法度みたいで、正義に逆らうを許さずとか」
正義「土方歳三が好きでな。誠に全身全霊尽くすべし、本人も異存はないだろう」
寛太「強制されてと自由意志は大きな違いです」
正義が考え込んでいる間。寛太、ジュースの缶をゴミ箱から取り出して手に持ち、ベッドに腰掛ける。
正義「いいだろう。終わったら誓約書を返す」
寛太「そう来ますか」
正義「翔平も学校に慣れただろうしな」
寛太「あ、土曜はサガン鳥栖の試合に連れて行く約束です」
正義「それくらい、お前じゃなくてもサトルでいい」
寛太「分かりました、引き受けます。どんな仕事ですか?」
寛太、煙草を吸い込む。
○広島の太田川下流
うつ伏せで岸に浮かぶ女性の死体。
正義の声「二ヶ月程前、各地でスコールが激しかったそうだな」
寛太の声「地球温暖化による異常気象とか騒いでいました」
○新聞記事
「集中豪雨の悲劇。橋から転落し主婦野口恵理さん(51)溺死」
正義の声「警察は単純に集中豪雨による事故死と発表した」
○機内
軽装の野口裕二(57)が飛行機の窓からぼんやりと外を眺めている。
正義の声「野口恵理さんはオレの命の恩人だ。」
寛太の声「事故じゃなくて事件と思っているのですか?」
正義の声「賢明で慎重な人だ」
寛太の声「四十九日を過ぎての調査ですね」
正義の声「亡くなったのを知ったのは1週間前だ。まだ信じられない」
寛太の声「死んだ人は生き返りませんよ」
正義の声「本当の事が知りたい。特に亭主について調べてくれ」
○寛太の部屋
寛太、吸い終わった煙草を空缶に押し込む。
寛太「すぐ取り掛かります」
正義「また、こちらから電話する」
寛太、携帯を閉じて窓の方へ行く。
リサイクル倉庫「ワンモア」の最上階には灯が点いている。
寮の前からツーが事務所の犬小屋へ戻る。
タイトル「四葉のクローバー〜青葉」
○リサイクル倉庫「ワンモア」の事務所
寛太、入口で見張る秋田犬ツーの頭を撫でようとするが、ツーは避ける。
事務所に入ると、奥から村松照美(28)が気付いて駆け寄る。
寛太「おはよう」
照美「おはようございます。あの・・天野さんから電話があって・・」
寛太「ああ、仕事で連絡が欲しかったのです。助かりました」
照美「すみません・・」
涙ぐみながら、照美が頭を下げる。
寛太「それで、暫く広島に行きます。マコトさんは?」
照美「朝食の後に、天気がいいからと屋上です」
寛太「そうですか。仕事はサトルに指示しました」
照美「マコトさんに会って行かれないのですか?」
寛太「それが・・つい煙草を今朝吸ってしまって」
寛太、頭を掻く。
照美「分かりました。マコトさんに伝えておきます」
寛太「やめてください、禁煙している事になっていますから」
照美「いえ、寛太さんが広島に出張されると」
寛太「あ、そうですね。それから土曜のベアスタにはサトルが翔平君を連れて行きます」
照美「高木さんと一緒じゃないなら、友達と自転車で行くと思いますよ」
寛太「それもいいですね。じゃ、何かあったら携帯に連絡してください」
照美、もう一度頭を下げて出て行く寛太を見送る。
寛太、ツーに話しかける。
寛太「後は頼むぞ」
ツー、横を向いて鼻を鳴らす。
○バギオ空港
荷物を抱えた野口裕二がゲートから出てくる。
ユーリ・マリア・バビーニョ(21)が急ぎ足で近づき、思いつめた様子で裕二にしがみつく。
ユーリ「会イタカッタ・・」
裕二、顔を赤くして周囲の視線を気にする。ユーリが啜り泣き、裕二はユーリの肩を抱いて出口へ向かう。
○太田川寿橋
幅3メートル程の古い橋の中央付近で、寛太が地図と周囲の風景を照合している。下流に新しい高取橋、上流側に県道の幸橋が見える。
○広島市高取町の野口家
板塀に囲まれた古い造りの家。門のポストに新聞はなくチラシが数枚入っている。スーツに着替えた寛太が紙袋を手に、門のチャイムを何度か押す。
隣の家から鈴木光子(70)が出てくる。
光子「野口さん、旅行で居ませんよ」
寛太「そうなんですか、困りました」
光子「急ぎの用事?」
寛太、爽やかな笑顔を見せて名刺を渡す。
光子「調査会社?探偵さんかね」
寛太「ええ、実は亡くなった野口恵理さんのお母様から、どういう生活をしていたのか調べて欲しいという依頼なんです。それで、ご主人にお尋ねしようと思いまして」
光子「恵理さんのお母さん?」
寛太「はい、離婚されて恵理さんを父親が引き取ったそうです。お母様は再婚されて、今は息子夫婦と3人のお孫さんと暮されております。恵理さんの事は秘密にしていたので亡くなったと知っても家族に言えず、それで体調を崩して入院され、病院から私どもに調査依頼が来ました」
隣人「まぁ、まぁ、お可哀想に・・」
寛太「あの、よろしかったらこれ」
寛太、袋を光子に差し出す。
寛太「ご主人に持ってきましが、いらっしゃらないなら生ものですから無駄になります。宜しかったらどうぞ」
光子、袋の中を覗く。
光子「あら、大きなマスクメロンが二つも」
寛太「お母様に早く報告を差し上げたいのですが、ご主人が旅行なら仕方ありません。また出直して来ます。いつ頃お帰りのご予定なんでしょうか?」
光子「確か予定は1週間だけど、あの人に聞いても・・立ち話も何だから、ちょっと私の家に来ない?」
寛太「いいんですか?」
光子「息子夫婦は仕事で、孫も学校なの。あなたは信用出来そうだからいいわ」
寛太「すみません、お邪魔します」
寛太、光子の後から隣の鈴木家に入る。
○バギオのログハウス
リビングのソファーに座って部屋を見回す裕二。コーヒーを運び、ユーリが裕二に体を寄せて横に腰掛ける。
裕二「ここは?」
ユーリ「レンタルハウス。前、恵理ママト泊マッタ」
裕二「そうか、ホテルよりいいな」
ユーリ「ゴメンナサイ、飛行機、乗換エ疲レタデショウ」
裕二「いや、でもユーリはマニラに住んでいるんだろう?」
ユーリ「マニラ、落チ着カナイ」
裕二「仕事はどうした?」
ユーリ「不況、観光客来ナイ、仕事ナイ」
裕二「そうか」
裕二、ボストンバックから簡易仏壇を出してテーブルに置き開く。中には位牌と恵理の遺影。
ユーリ、床に跪き、手を組んで泣く。
ユーリ「恵理ママ、ゴメンナサイ」
裕二「ユーリが謝ることはない」
ユーリ「セレモニー、オ墓参リニ行カナクテ」
裕二「亡くなったマミーが日本で酷い目にあったんだ。恵理も分かっている」
ユーリ「恩返シ、何モシテナイ」
裕二「ユーリは恵理の生き甲斐だったよ。恵理はフィリピンでユーリと暮らすつもりだった」
驚いたようにユーリは顔をあげて裕二を見る。
ユーリ「恵理ママ、ソウ言ッタノ?」
裕二「いや、推測だけどね」
ユーリ「パパト恵理ママ、愛シ合イ結婚シタノ?」
裕二「いや、それは・・」
裕二、困惑した表情。
ユーリ「違ウ?」
裕二「父が決めたんだ」
ユーリ「パパノパパ?」
裕二「うん、恵理のお父さんと父は戦友で、恵理のお父さんが亡くなって父は僕に恵理を妻にするよう命令した」
ユーリ「ソレマデ、恵理ママトハ?」
裕二「実家で初めて恵理と会った時には父がすべて決めていて、僕と恵理は、父の指図に従うだけだった」
ユーリ「恵理ママ、パパノパパニ従ウ?」
裕二「恵理は、父の娘になりたかった」
ユーリ「ヨク、判ラナイ」
裕二「僕の家は特殊だったのかもしれない」
裕二、簡易仏壇をサイドボードの上に移動させ、手を合わせた。ユーリも裕二の仕草を真似て手を合わせる。
○ビジネスホテル
窓際で寛太がメモを見ながら携帯に話している。
寛太「5月28日、市民会館で夜の7時からの地元議員の講演会に、野口恵理は公民館の動員で参加。行きも帰りも公民館主事の車に同乗予定でしたが、豪雨警戒の連絡で講演の途中に主事は公民館に戻っています」
正義「恵理さんは置いてきぼりか」
寛太「バスで帰り、バス停から歩いて家まで20分くらいの距離です。大通りから逸れて寿橋を渡る途中、強風で傘に引きずられて川へ転落」
正義「亭主は迎えに行けなかったのか?」
寛太「大阪に居ました。15年前に死んだ兄の家族と会い、事故の連絡は翌日の朝、大阪のホテルで受けています」
正義「畜生、悪いのは公民館の主事か」
寛太「公民館は建前として特定政党を応援出来ませんので、公民館行事に関わる事故としての保険金は支払われていません」
正義「戻ったら締めてやる。しかし、理恵さんが危険な状況で橋を渡るというのは納得出来ない。家に誰もいないんだろう?無理して帰る必要はないじゃないか」
寛太「詳しくは明日から調べます。ゲリラ豪雨で計画的犯罪は無理だと思いますが」
正義「まぁいい、亭主には会ったか?」
寛太「えっ、知らないんですか?」
正義「何だ・・」
寛太「フィリピンに旅行中です」
正義「それを早く言え!」
携帯から聞こえる正義の怒鳴り声に寛太が驚く。
寛太「マサさんがマニラで野口がフィリピン旅行、偶然じゃないでしょう」
正義「いつからだ?」
寛太「昨日の朝、家を出ています」
正義の舌打ち。
正義「奴らはマニラじゃない・・何処に隠れた・・」
寛太「奴らというのは、野口の他に誰か?」
正義「また連絡する」
携帯が切れ、寛太はポケットから煙草を出し、外を見ながら一服する。
○ログハウス、裕二の寝室
ベッドで寝ている裕二、パジャマ姿で見詰めるユーリ。
裕二、気配に目を開ける。
裕二「どうした?」
ユーリ「隣、イイ?」
裕二「いいよ」
裕二が横にずれて、ユーリは嬉しそうにベッドに入ってくる。
裕二、そのまま眠り、ユーリは裕二の手を胸に引き寄せて目を閉じる。
○太田川の川原
恵理の水死体が見つかった場所付近で腰を落とし、川面を眺めている寛太。
土手に止まった2台の車から5人の男が近づいてくる。
A「何しちょる」
寛太「息してる」
A「なんじゃ〜」
寛太「もんじゃ〜」
詰め寄る5人。寛太、立ち上がる。
B「なめとんのか!」
寛太「いや、川の水は汚い」
寛太は無視して歩き出す。5人が立ち塞がる。
C「吉備の仲間だろ」
寛太「吉備?あんたらは常盤会か」
A「お前、素人じゃねぇな」
寛太「邪魔だ、どいてくれ」
AがCとD、Eへ目で促す。
B「痛めつけて事務所へ運べ」
三人、殴りかかる。寛太、腰を沈め肘打ちと正拳で倒し、ナイフを出そうとしたAを蹴りで飛ばす。B、後ずさる。
寛太「いかんな、体が鈍っている」
寛太、倒れてる男たちを無視して空手の試技をする。
車から、若頭の吉沢が走ってくる。
吉沢「待て、待つんだ〜」
B「若、こ、こいつ、只者じゃありません」
吉沢「その人は〜カラカンさんだ〜」
慌てて5人、寛太から離れる。
吉沢「変な奴がうろついていると通報があり・・失礼しました」
汗だくの吉沢が荒い息で寛太に挨拶をする。
寛太「2ヶ月前に水死体が上がったのを知っているか?」
吉沢、考え込む。
吉沢「確か、豪雨で近所の主婦が・・」
寛太「その件を調べている」
吉沢「分かりました、お手伝いします」
吉沢、組員の5人を睨む。
吉沢「聞いた通りだ、手を出したお詫びに情報を集めろ」
5人「へぇ、やらせていただきます」
カラカンに深く頭を下げる。
○バギオ市内、バーハム公園の池
白鳥や海の動物を形どったボートが広い池に多く見られる。
池の中央付近に足踏みゴムボートの裕二とユーリ。
ユーリ「コレ、乗リタカッタ」
裕二「恵理とは?」
ユーリ「女二人、恥カシイ」
裕二「僕と一緒も恥かしいんじゃないか?」
ユーリ「何故?」
裕二「ほら、若いカップルばかり」
裕二、目で周囲のボートを見る。
ユーリ「私達、カップル」
ユーリ、甘えて裕二に凭れかかる。裕二、支えてユーリの肩を抱く。
裕二「大きくなったな」
ユーリ「胸?」
裕二、顔を赤らめて目を逸らす。
裕二「からかうなよ、大人になったという意味だ」
ユーリ「ズット大人。パパ、2年、来ナカッタ」
裕二「恵理が来ただろう」
ユーリ「パパニモ会イタカッタ」
裕二とユーリ、お互いを見る。
裕二「もう12年か・・」
ユーリ「忘レナイ・・」
○マニラの下町(回想)
裕二と恵理、日本人のガイドが歩いている。
後ろから痩せて汚れた服装のユーリ(9)が走って裕二の買い物袋をひったくる。
日本人ガイドが捕まえて殴る。地面に倒れるユーリ、手には袋から取ったバナナが握られている。
タガログ語でユーリに怒鳴るガイド。裕二が近づくとユーリが憎々しげに睨み叫ぶ。
ユーリ「日本鬼、クソッタレ!」
裕二、ユーリを強く抱きしめる。
○バーハム公園の池
池の中央、止まったままのボートの中で裕二とユーリは寝転び空を見ている。
ユーリ「パパ、泣イテイタ」
裕二「胸が痛くてたまらなかった。この子を守ると誓った」
ユーり「ドウシテ?ユーリ、トッテモ悪イ子」
裕二「純粋な絶望に圧倒されたから」
ユーリ「判ラナイ」
裕二「恵理には通じた。それまで形だけの夫婦だった僕達が、ユーリを間に気持ちが繋がった」
ユーリ「恵理ママ、優シカッタ、デモ厳シカッタ」
裕二「僕は甘やかしているって、文句ばかり言われたよ」
ユーリ「年ニ数回シカ会エナカッタ」
裕二「本当はユーリを連れ帰って養女にしたかった」
ユーリ「ゴメンナサイ、パパト恵理ママ大好キ、デモ日本嫌イ・・」
裕二「いいんだ、セカンドペアレントシステムの環境は整っていたから」
ユーリ「学校ノ寮、ユーリ、恵マレテイタ。友達カラ日本ノ金持チノ子供ト思ワレテイタ」
裕二「金持ちじゃないけど、ユーリは自慢の娘だよ。マリアが名前を裕二と恵理からユーリにすると決めたのは嬉しかった」
ユーリ「今日カラ、マリア・ユーリ・バビーニョデス、ユーリト呼ンデクダサイ〜」
二人、笑う。
裕二「父は戦争中フィリピンの部隊にいて、終戦で日本に帰ったが、広島は原爆で地獄だった」
ユーリ「恵理ママノパパハ?」
裕二「同じ部隊の戦友で、真面目な人だったらしい。明らかな冤罪なのに刑務所で亡くなったそうだ」
ユーリ「フィリピン、戦争デ沢山ノ人、犠牲ニナッタ」
裕二「父は恵理に戦争中の事を話し、自分の代わりに今のフィリピンを見てきて欲しいと頼んだ。それで、僕と恵理がマニラに来た」
ユーリ「ソレガ、アノ頃」
裕二「日比復興協会に寄付する予定だった。しかし、あいつは貧しい人を救う活動と言いながら、ユーリを殴った。後で、詐欺団体と判った」
ユーリ「マミー死ニ、部屋ヲ追イ出サレタ。オ金、食ベル物ナクテ・・」
裕二「恵理が英語を話せたから、ボランティアのセカンドペアレント協会を見つけ、短い期間でまとまった。ユーリからの手紙や写真は全部ファイルにしてるよ」
ユーリ「ユーリモ。一生ノ宝」
裕二「翻訳ソフトを使って、恵理に確かめたら間違いだらけだったなぁ」
ユーリ「パパ、日本語デ良カッタ。ユーリ、日本語勉強シタ」
裕二「どうも語学は苦手で」
裕二、照れて頭をかく。
ユーリ「パパト恵理ママト、日本語デ話シタカッタカラ」
裕二「今からでも遅くない。大学へ行かないか?」
ユーリ「モウ大人。ユーリ、働ク」
裕二「そうだな、自分の道は自分でだな」
ユーリ「パパトノ出会イ・・」
裕二「うん?」
ユーリ「運命ト信ジテル」
裕二「そうかな」
裕二、起き上がって寂しそうな顔をする。
○コンビニの駐車場
深夜。車の運転席に寛太。書類を眺めながら携帯。
寛太「気になる点が多いんです」
正義「例えば?」
寛太「堤防の決壊を心配して川を見ていた人が、事故を目撃していません」
正義「警察には?」
寛太「この件で、ほとんど聞き取り捜査ない。バス停から寿橋というのも証明できません」
正義「それで話が変わるのか?」
寛太「野口恵理の体に打撲の跡があるんです。警察は高取橋の橋脚に衝突した打撲としています」
正義「下流の橋か」
寛太「雨を避けて、地元なら遠回りでも庇のある路地を通ります。この事故の報告書は雑過ぎる」
正義「手抜きだな」
寛太「担当の高橋刑事は、野口裕二と高校で同級です」
正義「何!」
寛太「気になるでしょう」
正義「亭主のアリバイは間違いないのか」
寛太「確かです」
正義「その刑事、怪しいな」
寛太「明日、警察に行って会ってきます」
正義「俺も人探しで忙しくなった。連絡は遅くなるかもしれない」
寛太「携帯を持ちなさいよ」
正義「あれは苦手だ。じゃ、頼む」
寛太、携帯を胸ポケットに入れ、コンビニ前のタバコ自動販売機を見る。
寛太「タスポがないから、店内か」
車から出る。
○ログハウス、裕二の寝室
同じベッドで離れて寝ている裕二とユーリ。
ユーリ「マミー、怒ルト、日本ニ強制送還スルト言イッタ。日本デ、身体バラバラニサレテ、日本人ノ子ニ付ケラレルッテ」
裕二「それは、怖かっただろうな」
ユーリ「マミー、日本大嫌イ。デモ日本人相手ノ・・悪イ仕事シテタ」
裕二「嫌うのは当然だ。国際結婚を口実に売られたんだから」
ユーリ「売ラレタ?」
裕二「ああ、協会で調べてもらった。相手は四十過ぎの男で、五百万を斡旋者に渡してマミーを買った」
ユーリ「マミー、ドウシテ?」
裕二「マミーの家に百万程度が支払われている。マミーは言葉も習慣も違う日本の農家で、周囲の偏見、義母の介護、畠仕事、それに夫の暴力に苦しんだ」
ユーリ「マミー、日本逃ゲタ?」
裕二「いや、義母が亡くなり、マミーのせいにされた。前の斡旋業者が中国女性を夫に紹介し、マミーは籍を抜かれて家を追い出された」
ユーリ「マミーヲ買ッタ人・・ユーリノ本当ノパパ?」
裕二「マミーは、斡旋業者に東京へ連れて行かれ、2年後に北陸の風俗店で警察に捕まり、強制送還されている。その時、妊娠していた」
ユーリ、裕二の胸に顔を押し付けて泣いている。
ユーリ「マミー、可哀想」
裕二「元の夫は再婚後、半年で自殺している。中国人の妻は家や土地を勝手に処分し、多額の借金を押し付けて行方不明になった」
ユーリ「パパ、日本、怖イ」
裕二「「ユーリは素敵な相手を見つけ、幸せになってくれ。恵理と僕と、それにマミーの願いだ」
小さく欠伸して、裕二が目を閉じる。ユーリ、裕二の寝顔を見ている。
ユーリ「ユーリ、パパダケ。、マミーモ恵理ママモ亡クナッテ・・パパダケ・・」
ユーリ、身体をずらして裕二に近づき、頬にキスする。
○県警、受付
高橋刑事(55)が受付で待つ寛太の前へ来る。
高橋「俺に用か?」
寛太「私、調査会社の者です。少し時間を頂けませんか」
寛太、名刺を高橋に差し出す。高橋、受け取って見る。
高橋「根津調査会社か。山陰じゃ大手だな」
寛太「元警察の方も多いです。実は保険会社の依頼で、野口恵理さんの事故を調査しています」
高橋の表情が硬くなる。
高橋「何の問題もない。処理済だ」
寛太「自殺の可能性はないでしょうか」
高橋、やや表情が和らぐ。
高橋「そこまでは分からん。しかし、2年以上の保険は関係ないだろう。既に2千万支払われているし」
寛太「損害保険で、不慮の事故だけが支払いの対象なんです。ご主人から請求はまだありませんが」
高橋「知らないんじゃないかな。事件性はないから、警察としては関与しない」
寛太「ご主人、野口裕二さんと高橋刑事は高校で一緒だったんですね」
高橋、警戒の表情になる。
高橋「それがどうした」
寛太「野口裕二さんが旅行中で面談が出来ないんです」
高橋「俺には関係ない。忙しいんだ、もういいか?」
寛太「はい、どうも有り難うございました」
高橋が部屋の中に戻り、寛太も警察を出る。
○コルディリェーラの棚田
バギオ郊外のバナウェ。乗り合いのジプニーから他の観光客と一緒に降りた裕二とユーリが棚田を眺める。
裕二「いい所だな」
ユーリ「世界遺産。天国ノ階段ト呼バレテル」
裕二「フィリピンに魅せられた恵理の気持ちが判る」
ユーリ「レガスピニアル、マヨン山モ恵理ママ好キ。パパニ見セタイ」
ユーリ、畦のクローバーから2本引き抜き、1本を裕二に差し出す。
裕二「四葉のクローバーだ。よく見つけたね」 ユーリ「恵理ママ、モット探スノ得意ダッタ」
裕二は手帳に挟んで胸のポケットに入れ、ユーリは髪留めに付ける。
ユーリ「日本人デモ、パパダケハ特別」
裕二「僕は平凡そのものだよ」
ユーリ「パパノ子供ノ頃、知リタイ」
裕二「親に見捨てられていた」
ユーリ「何故?」
裕二「両親は秀才の兄に期待し、頭の悪い僕に関心なかった」
ユーリ「オ兄サン、ズット前ニ亡クナッタ」
裕二「うん、ガンだった。ショックで母がおかしくなり、僕と恵理が同居する事になった」
ユーリ「理恵ママ亡クナリ、日本デ、パパ一人」
裕二「慣れているよ、一人には」
ユーリ「慣レルト気付カナイ。一人、トテモ淋シイ」
ユーリ、裕二の手を握る。
○ビジネスホテルの部屋
ベッドに腰掛けて携帯をかけている寛太。
寛太「高橋刑事は最近、借金を全額返済しています」
正義「おそらく間違いないな」
寛太「証拠はありません。ただ野口裕二の口座に振り込まれてた2千万はすぐに全額引き出されています」
正義「金の流れを確認してくれ、高橋刑事に渡っている筈だ」
寛太「判ったらどうします?」
正義「決めていない。とにかく本当の事を知りたい」
寛太、タバコを吸う。
寛太「マサさん、マコトさんとの仲違いの原因は何ですか」
正義「何だよ、今更」
寛太「やり方には問題があっても、マサさんはマコトさんの為に行動していたし、マコトさんもマサさんを信頼していた」
正義「オレとマコトじゃ、水と油だ。価値観が違いすぎる」
寛太「それはそうですが・・」
正義「久留米事変は知っているな。九州の闘争に関東、関西の組織が後押しして、とんでもない物が絡んできた」
寛太「巻き添えでマコトさんの家族が亡くなり、マコトさんもあんな体になったんですね」
正義「協定が結ばれ、オレは轟の親父にマコトの警護を任された。ただ、協定を知っていてマコトを狙うバカはいないと思っていた」
寛太「いたんですか?そのバカが」
正義「中国の組織だ。マコトが死ねば勢力図が変わる。そこに割り込もうと企んだ」
寛太「それで」
正義「俺は組織の5人全員を片付けた。ただ、運悪くマコトが屋上から見ていた」
寛太「そんな事が・・」
正義「マコトはオレに説教しやがった。命の価値とか重さとか言いやがって」
寛太「仕方ないですよ、マコトさんにとって自分より他の人の方が大切なのですから。分かりました、僕がマコトさんを説得します。仲直りしてください」
正義「それがなぁ、短気なオレが大人しくマコトの話を聞いてる筈ないだろう?」
寛太「たかが口喧嘩でしょう?いつまでも気にするマコトさんじゃないですよ」
正義「掠れ声が耳障りでうるせぇ、澄ました面は見たくねぇと怒鳴ってしまったんだよなぁ」
寛太、絶句する。
寛太「て、てめぇ、そんな事をマコトさんに!」
正義「マコトはマスクを被りオレに背を向けた。オレはそのままワンモアを離れた」
寛太「マコトさんは自分を恥じてるのじゃない、人に不快感を与えるのを恐れて」
正義「言うな、分かっている。恥じているのはオレだ。明日、また連絡する」
携帯を閉じ、タバコを灰皿で消して寛太は溜息をつく。
着替えようとして、また携帯が鳴る。寛太、画面を見て首を傾げる。
寛太「はい、高木です」
根津「おい、広島で何をやってる!」
寛太「えっ?依頼があった調査の仕事ですが・・」
根津「誰からの依頼だ!」
寛太「それは・・守秘義務で・・」
根津「ほう、俺にも言えないと?」
寛太「ボス、九州事務所長として独自の活動を許してくれたはずです」
根津「撤回だ、内容によってはクビだ」
寛太「そんな・・どうして・・」
根津「マコトが絡んでるんだよ」
寛太、携帯を持つ手が震える。
○ログハウス、裕二の寝室
朝、ベッドの片側で目覚めた裕二。横には枕が残っている。
居間の方からタガログ語が聞こえ、裕二はだるそうにベッドから降りて着替える。
○リビング
ソファーで携帯電話中のユーリ、起きてきた裕二を見て早口で携帯を切る。
ユーリ「オハヨ、パパ。スグ朝食」
裕二「コーヒーは?」
ユーリ「出来テル」
ソファーから立ち上がり、ユーリがキッチンに移動する。裕二も後に続く。
○キッチン
テーブルでコーヒーを飲んでいる裕二。ユーリ、ハムエッグを焼いている。
裕二「携帯は誰と?」
ユーリ「会社先輩。バギオノ人、家ニ帰ッテイル」
裕二「男性?」
ユーリ「ソウ」
裕二「会うの?」
ユーリ「断ッタ」
フライパンからハムエッグを皿に移す。
ユーリ「電源入レテメール確認シタ・・至急連絡ダッタ」
裕二「何があるか判らないから、電源は切らない方がいい」
ユーリ、テーブルに二人分のハムエッグを置き、フランスパンを添えてコーヒーを注ぎ足す。
裕二「明日、一人で帰るよ。空港の乗り継ぎだけだし」
ユーリ「イヤ!マニラマデ一緒」
裕二、何か言いかけて止め、黙ってハムエッグを食べる。ユーリも同じく黙々と食事をする。
○居間
テレビでビデオの「おくりびと」が流れている。ソファーでぼんやりと観ている裕二。パンフレットを手に自分の部屋からユーリが出てきて、テレビの方を見る。
ユーリ「マタ観テルノ?」
裕二「テレビ番組は言葉が判らないから。消していい」
ユーリ、テレビを消して裕二の隣に座り、パンフレットを広げる。
ユーリ「タクシー、ケノン道路ヲドライブ?ハルセマ山岳、ボモドック滝モ良イ所」
ユーリはパンフレットで観光地を指差すが、裕二は見ていない。
裕二「今日で終わりだし、市内をのんびり回ろう」
ユーリ「・・ジャ、次ノ機会ネ」
裕二「ああ・・」
歯切れの悪い裕二の返事に、ユーリが顔を曇らせる。
○バギオ市内、日本庭園
英霊慰霊碑を見上げる二人。
裕二「まだ日本人を恨んでいる人も多いんだろうな」 ユーリ「パパ関係ナイ、戦争悪イ」
裕二「戦後も日本人は酷い。景気の良い時は買春旅行が盛んだった」
ユーリ「パパ違ウ。日本人デ良イ人、イル」
ユーリに腕を引かれ、裕二、慰霊碑の前を離れる。
○展望台、マインズビュー・パーク
バギオを取り巻く山々見回す裕二とユーリ。
裕二「いい景色だな」
ユーリ「広島ニモ山アルノ?」
裕二「ああ、でも、こんなに見晴らしは良くない」
ユーリ「バギオ、高原都市デサマー・キャピタル呼バレテル。広島ト、ドチラガ大キイ?」
裕二「広島は都会だけど、僕がいるのは田舎だよ」
ユーリ「人口、少ナイ、デモ何デモアル。近ク、マンション・ハウス、昔ノ総督宅、トテモ大キイ」
裕二「マニラとバギオ、どっちがいい?」
ユーリ「バギオ良イ、マニラ、人多過ギ」
裕二「僕も、都会より田舎がいいな」
ユーリ、嬉しそうに裕二に体を寄せる。
ユーリ「バギオニモ、日本レストラン、アル。夜ノ食事、日本料理」
裕二「いいね」
二人、駐車場で待たせていたタクシーに乗り込む。
○シティ・マーケット
迷路のような道路に店が建ち並び、人が多い。
はぐれないようにしっかりと肩を抱き合って通る二人。
ユーリが何か話すが、喧騒で聞き返す裕二。
○バギオ大聖堂
礼拝堂から出てきた花婿、花嫁を皆が祝福している。
少し離れた場所からユーリと裕二が眺めている。
裕二「ユーリも結婚は教会だね」
ユーリ「友達結婚式、コノ前、出席シタ」
裕二「ユーリのウエディングドレスを想像してしまう」
裕二はユーリに笑いかけるが、ユーリの表情は硬い。
ユーリ「マダズット先・・キット・・」
携帯が鳴り、顔を顰めながらユーリが耳に当てる。タガログで話す。
ユーリ「トニー、レストラン予約シテルッテ・・」
裕二「トニー?今朝の先輩か」
ユーリ「トテモ強引」
ユーリ、裕二に肩を竦めてみせ、電話を続ける。
ユーリ「パパモ一緒ニト言ッテル」
困った顔のユーリに、裕二が答える。
裕二「判った、僕も行くよ」
ユーリ、困惑した表情。電話で話し、切る。
ユーリ「セッションロード、ステーキノ店」
ユーリの口調がやや重い。
裕二「トニーとマリアか。ウエストサイド・ストーリーだな」
ユーリ「アンソニー、正式ナ名前。スペイン系デ、バギオノ家柄良イソウ。フィリピン大学バギオ校、卒業」
裕二「エリートだな。付き合ってるの?」
ユーリ「違ウ。普通ノ会社友達」
裕二「向こうは、どう思ってるかな」
裕二がからかうように言ったが、ユーリは首を振って否定する。
裕二「食事したら先に帰る」
ユーリ「パパ、私モ一緒。食事ダケ」
裕二「二人もご馳走してもらうんだ。若者の楽しむ場所があるだろう」
ユーリ「お酒、ダンス、好キ違ウ」
裕二「会社の人との付き合いも大事だよ」
ユーリ「パパ一緒ノ時間ノ方、トテモ大事」
二人、セッション通りの方へ歩く。
○バギオ空港
正義、空港ロビーを出て周囲を見回し、タクシーに乗り込む。
○セッションロードのレストラン「セントルイス」
いかにも権威ある一流レストランの雰囲気。入口ドアの前で裕二とユーリ、立ち止まる。
裕二「着替えて来た方が良いかな」
ユーリ「観光客、狙ワレル。普段着ガ良イ」
裕二「うん、そう聞いたけど、今日は動き回って汚れたから」
ユーリ「トニー、ガイド。分カッテル」
二人、中に入る。
○レストラン「セントルイス」店内
テーブルは半分以上が埋まっている。給仕が二人に近づき、ユーリと英語で話す。
ユーリが店の中を見る。スーツ姿のトニーが立ち上がり、手を振る。その席は二人用。 給仕が首を振って、裕二が奥へ入るのを手で止める。
ユーリ、一人で中に入り、トニーに強い口調で話す。トニー、なだめるようにユーリの肩に手を回そうとするが、ユーリは身体をずらして避ける。
肩をすくめて、トニーが奥の方を指差して何か言う。ユーリ、トニーが示した方に歩いていき、入口の裕二から見えなくなる。
トニー、入口近くの裕二の前に急ぎ足で来て、睨みながら高圧的に英語を喋る。
聞き取れず、首を振る裕二。
トニー、裕二の腕を掴んで、レストランのドアを開け、突き飛ばす。
トニー「ゲットアウト、ジャップ!」
トニー、ドアを閉める。通りで尻餅をついている裕二を通行人が訝しげに見る。
立ち上がり、裕二は歩き出す。
○バギオ日本人会事務所
受付カウンターでバギオの市内地図を広げて所員に聞いている正義。
○リサール公園
夕暮れ。ベンチに腰掛け、チキンスナックを食べている裕二。
○バーナム公園
もう暗くなっている。池を眺めている裕二。
○ログハウスの外
坂道。裕二が歩きながら見上げたログハウスに灯がついている。
○ログハウス玄関
中に入る裕二。駆け寄るユーリ。
ユーリ「今マデ、何処・・心配シタ」
ユーリ、泣きながら裕二に抱きつく。
裕二「市内を散歩だよ。最後だから・・」
ユーリ、手を裕二の額に当てる。
ユーリ「熱、アル」
裕二「大丈夫」
ユーリ「大丈夫、違ウ!」
ユーリ、裕二の身体を支えて寝室に連れていく。
○裕二の寝室
ベッドに寝ている裕二。水の入ったコップと錠剤を持ってキッチンからユーリが現れる。
起き上がり、受け取って水と薬を飲む裕二。
ユーリ「アスピリン、コレシカナイ・・」
裕二「旅馴れてないから、環境の変化による疲労だろう」
ユーリ「明日、帰ルノ変更スル?」
裕二「一晩眠れば治る。あれからどうした?」
ユーリ、怒りの表情。
ユーリ「トニー、パパニ酷イ事シタ。叩イテ店出タ。パパ見ツカラナカッタ」
裕二「もしかして、何も食べてないのか?」
ユーリ「悔シク、オ腹空カナイ。会社ニ辞メル電話シタ」
裕二「どうして・・」
ユーリ「トニー、叔父サンノ会社。モウ彼ト仕事シナイ、会ワナイ」
溜息をついて、裕二はベッドに身体を寝かす。
裕二「ユーリの決めた事に口出しはしないが・・」
ユーリ「何故?パパノ言ウ事、聞ク」
裕二「もうユーリは大人で、僕は見守るだけ」
ユーリ「ソンナ事ナイ。パパ、モット一緒イタイ」
裕二「恵理とは違う。フィリピンには住めないよ」
ユーリ「移住駄目デモ、長期滞在デ1年、半年、1カ月一緒ニ」
裕二「今回を、最後にするつもりだ」
ユーリ、驚いた表情で息を飲む。
ユーリ「パパ、ユーリヲ棄テル」
裕二「違うよ。これ以上、ユーリの荷物になりたくない」
ユーリ「意味、判ラナイ。恩返シシタイ」
ユーリ、泣きながら裕二の体に縋りつく。
裕二「ユーリは喜びばかりくれたよ。望みは、ユーリが幸せになること」
ユーリ「パパ、オ願イ。離レタクナイ」
裕二「遠くに仕事が決まった。広島の土地を処分して、新しい生活で、今までのようにはいかない」
ユーリ「ソコ、近クニ空港、ナイノ?」
裕二「あるけど、フィリピン便はどうかな・・」
ユーリ「イヤ!、モウ会エナイ、イヤ!」
裕二「明日、話そう。今は体調が悪い」
玄関の方からドアの音。
裕二「玄関のドア、閉めた?」
ユーリ「閉メタ思ウ・・」
裕二「風で開いたのかな」
ユーリ「見テクル」
ユーリ、涙を拭いて寝室を出る。
○玄関
ドアが半開きになっている。閉めようと近づいたユーリの口を外からの手が塞ぐ。
呻くユーリを中に入ってきた正義がビニール紐で手足を縛る。
ユーリ「パパ、逃ゲテ!」
裕二、寝室から廊下へ出る。素早く近づいた正義が裕二の首の後ろを手刀で打つ。
裕二、倒れて気絶する。
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○浴室
バスタブの中。手足をビニール紐で縛られた裕二がシャワーを顔に浴びて目を開ける。
傍で屈み、覗きこむ正義。隅の柱に縛られて動けないユーリ。
正義「水より熱湯にすれば良かったな」
裕二「あんたは・・」
裕二、咽びながら正義を見る。
正義「湯田十三、お初だ」
ユーリ「裏切リ者ユダ、人殺シ十三、日本鬼!」
裕二、興奮しているユーリの方を向く。
裕二「ユーリの知り合い?」
ユーリ「違ウ、パパ、私ジャナク・・デモ・・」
ユーリ、言葉を濁し、正義を睨む。
ユーリ「何故、ココニ!」
正義「とぼけるな!俺から逃げてバギオに来たんだろ」
ユーリ「何ノ事?ユダ、関係ナイ」
不審気に、裕二が二人を見比べる。
裕二「ユーリが何をしたか知らないが、乱暴はやめてくれ」
正義「馬鹿野郎、お前が相手だ」
裕二「えっ?」
正義「高橋に恵理さんを殺させたな」
裕二「高橋?恵理さんって・・あんた、何者だ」
ユーリ、泣き声になる。
ユーリ「恵理ママ、コノ日本鬼ニ騙サレテタ」
正義「へっ、ガキに俺たちの何が判る。恵理さんが死んだら亭主を咥え込みやがって」
ユーリ「下衆、ヤクザ、人デナシ!」
正義「中国じゃ日本鬼と言わない。日本鬼子だ。女に忌み嫌われ、ムッツリスケベで俺より乱暴者のカラカンという子分が日本にいる。恵理さん殺しを突き止めた褒美に、テメエは日本に引き摺っていって、カラカンの餌だ」
裕二「待て、恵理の事なら、ユーリは関係ない。放してやってくれ」
正義「そうはいかねぇ、恵理さんにあれだけ可愛がられたのに、恵理さんを殺したお前と一緒にいるってのは許せん」
ユーリ「知ラナイノ?恵理ママ、事故デ死ンダ」
正義「事故に見せかけ、こいつが刑事とグルになって殺した」
正義、裕二の髪を掴む。
ユーリ「パパガ恵理ママヲ?バカバカシイ」
裕二「そもそも、僕が恵理を殺す理由がない」
正義「あるさ、恵理さんに離婚を要求された」
裕二、髪を掴まれたままの首を動かして正義を見ようとする。
裕二「どうしてそれを?」 正義「俺と約束していた」
裕二「そうか」
裕二の体から力が抜ける。
正義「吐けよ、吐かなきゃ熱湯、吐けば水風呂だ」
裕二「ユーリを逃がしてくれるか?」
正義「いいだろう、約束する」
裕二「わかった、僕が殺した」
正義、裕二を浴槽の下の方に押し込み、水のコックを捻る。
ユーリ「嘘ヨ、パパ、私ヲ助ケル為・・オ願イ、日本鬼子カラカンノオモチャニナル!恵理ママノオ金、アゲル!、パパヲ殺サナイデ!」
正義「恵理さんの金?」
正義、裕二からユーリに視線を移す。
ユーリ「恵理ママノ保険金。22万ドル。全部アゲルカラ、パパヲ・・」
正義「2千万だな。なんでお前に?」
ユーリ「受取人、私ダカラト・・パパガ銀行ニ振リ込ンデ・・」
裕二「その金は、ユーリのものだ。あんたが、恵理の事を、思っているなら、手をつけないでくれ」
正義「受取人はお前だ」
裕二「保険会社が、第三者受取を、認めなかった・・僕が死んでも、大阪の義姉に、ユーリへ振り込むよう頼んだ」
浴槽の水は、裕二の腰まで来ている。
ユーリ「パパイナクテ、オ金、欲シクナイ・・」
正義「電話は・・リビングにあったな」
正義、戸惑った表情で浴室を出て行く。
○リビング
いらいらした表情で受話器を耳につけている正義。
正義「俺だ。例の2千万は違う・・何?」
正義、唖然とした表情。
正義「「なんで、マコトが・・うるせぇ、ちゃんと説明しろ」
電話口に怒鳴る正義。
正義「そんな・・いや・・まだ・・」
苦虫を潰したような表情になる。
正義「脅して・・あ、水が!」
正義、焦って電話を切り、浴室に駆ける。
○浴室
裕二「ユーリだけは・・信じてくれ。恵理を・・殺してない」
ユーリ「勿論ソウ、疑ッテナイ。湯田、狂ッテル」
裕二「ユーリ・・幸せに・・」
水が裕二の口までくる。
ユーリ「ユダ、水止メテ!パパノ代ワリ、私殺シテ!」
ユーリ、叫ぶ。正義、駆け込んで裕二を抱え上げ、バスタブの外に出す。
○裕二の寝室
ベッドに横たわる裕二。心配そうに世話をするユーリ。正義はドアの近くで二人を見下ろしている。
正義「確認したい事が出来た」
裕二「僕はどうなってもいい・・ユーリを・・」
正義「ユーリには何もしない。だから教えろ」
裕二「何を・・」
正義、咳払いをする。
正義「どうしてマコトと知り合った?」
裕二「マコト君?リサイクルの専門家だと・・恵理に教えてもらった・・」
正義「恵理さんに?」
考えて、思い当たった様子の正義。
裕二「山中の不法投棄で・・撤去の許可も予算もなく・・自然保護、住民の生活の為・・何とかしたくて・・見かねた恵理が、・・知り合いの尊敬する人だから相談しろと・・」
正義「名前だけで知り合えるのか?」
裕二「パソコンで・・マコト、ワンモア、四葉、リサイクル・・検索して掲示板を見つけた。マコト君の尽力で・・解決した・・それ以来、チャットで親しくなった・・」
正義「それで・・恵理さんの事故をマコトに相談したのか・・」
裕二、正義の方を見た。正義、困惑した表情で視線を避ける。
裕二「あんたは・・マコト君と・・親しいのか?」
正義「いや、ちょっと昔に縁があって・・今は俺がこんなだから絶交された」
裕二「高橋の説明は・・納得いかない部分が多かった。マコト君に話したら・・意図的な歪曲で・・出来るのは警察幹部だと・・マコト君の知り合いの・・調査会社が当日の行動を調べ・・キャリアの署長が・・接待で飲酒して運転したのを・・掴んだ」
正義「高橋刑事は」
裕二「高校の同期だが・・嫌がらせの記憶しかない。定年前で・・再就職先の斡旋、署の裏金での借金清算で・・署長に協力したようだ」
正義「それを知って、あんたは泣き寝入りするつもりか!」
裕二「恵理は・・昔の事で・・警察、検察、裁判・・マスコミ、無責任な野次馬を・・嫌っていた。証拠はない・・訴えても・・恵理は喜ばない」
正義「それはそうかもしれないが・・」
裕二「マコト君も・・同じ意見だ。因果応報、天知る、地知る、吾知ると」
正義、不満そうに首を振る。
正義「マコトからワンモアへ再就職を勧められているのか?」
裕二「よく知ってるな。広島の家を処分して・・久留米に行くつもりだ。事故の日は・・土地の件で死んだ兄の家族へ・・相談に行った。整理がついたら・・恵理と財産を折半して離婚の手続きをする・・筈だった」
正義「判った。俺の勘違いだ。迷惑をかけたな」
正義、部屋を出て行こうとする。
裕二「待ってくれ・・あんたと恵理は?」
正義、振り返らず背中を向けたまま答える。
正義「俺は・・恵理さんが好きだった。それ以上言わせないでくれ」
裕二「それなら・・」
裕二、ユーリを見る。
裕二「居間の・・仏壇に・・」
ユーリ「駄目、コンナ奴!」
裕二「恵理が喜ぶ・・」
ユーリ、正義を睨んで部屋を出る。正義、後に続く。
○居間
簡易仏壇に手を合わせる正義。後ろで怒っているユーリ。
ユーリ「全ク、パパ、オ人好シ過ギル!」
正義「お前ら、まだ男と女じゃないのか?」
ユーリ「何!」
正義「恵理さんが言ってたぜ。ユーリの初恋の相手は裕二で、今でも継続してるってな」
ユーリ「恵理ママ・・ソンナ事・・」
振り向いて、困惑したユーリを正義が笑う。
正義「微笑ましいってな。しかし、もう恵理さんはいない。父親を知らない女と、子供のいない男の親子ごっこなんて、大人になりゃあ不自然だ。一緒になっちゃいなよ」
ユーリ「ダケド・・パパ・・」
正義「パパ、ユーリから、裕二、マリアの大人になりゃいいんだ。あいつは殺されかけてもお前を守ろうとした。お前は、あいつを助ける為ならどうなってもいいと言った。一緒にならない手はないぜ」
ユーリ「デモ・・」
正義「おっ、その裕二さんがお前を呼んでるぜ」
ユーリ「エッ?」
ユーリ、立ち上がって裕二の部屋の方へ動く。正義、簡易仏壇から位牌と遺影を取り出し、玄関に走り去る。
ユーリ「アー!泥棒!」
ユーリ、追おうとして倒れる。寝室のドアから裕二が現れ、ユーリが抱きつく。
ユーリ「ゴメンナサイ、湯田、恩ヲ仇・・恵理ママノ・・」
裕二「それで・・いいのかもしれない」
ユーリ「パパ、マダ起キテハ駄目」
裕二「もう・・大丈夫」
ユーリ「ベッドデ、休ム」
ユーリに抱えられて裕二、寝室に戻る。
○寝室
ベッドに横たわる裕二。ユーリがシーツを重ねて裕二の身体をさする。
裕二「水に浸かって・・身体が冷えた・・明日になれば治る」
ユーリ「前カラ病気。無理シナイ、帰国、延バシマショウ」
裕二「そうだな・・そうするよ」
ユーリ「良カッタ」
ユーリ、下着だけになってベッドに入り、裕二の身体に抱きついて暖める。
ユーリ「マダ、パパノ体、冷タイ」
裕二「湯田との話し・・聞こえた。ドアをちゃんと・・閉めてなかったから」
ユーリ「適当言ッテ、位牌盗ム隙、狙ッテイタ」
裕二「そうだな」
裕二、目を閉じる。躊躇いながら、ユーリが裕二の顔に頬をすり寄せる。
ユーリ「裕二サン・・呼ンデイイ?」
裕二「いいよ」
ユーリ「マリア・・呼ンデクレル?」
裕二「これからマリアと呼ぶ・・」
ユーリ「ソシテ・・裕二サント・・・・日本デ・・」
ユーリ、言葉を切る。裕二、眠りに落ちている。
○寝室
朝、ベッドにはユーリ一人。ユーリ、起きてリビングへ行く。
○リビング
誰もいない。キッチンから物音。ユーリ、キッチンに向かう。
○キッチン
裕二がフライパンでフレンチトーストを焼いている。
裕二「おはよう、もう少しだ」
ユーリ「ゴメンナサイ、パパ。私、寝坊」
裕二「あれ、名前で呼ぶんじゃなかったか?マリア」
ユーリ「アッ・・裕・・二・・サン」
裕二「着替えてきたら?朝から目に毒だよ」
下着姿のユーリ、赤面して自分の部屋へ行く。
○リビング
ソファーで寛ぐ裕二。ユーリがコーヒーを持って、裕二の横に座る。
ユーリ「身体ドウ?」
裕二「マリアの看病のお蔭で気分爽快だよ」
ユーリ「飛行機、キャンセルシテイイ?」
裕二「もう連絡したよ。代わりの便は決めていない。いつでも今は空席があるそうだ」
裕二、コーヒーを飲みほして、ユーリを見る。
裕二「血の繋がった親子でも、子の成人で子離れ、親離れをする。恵理にとってきっかけは最後の恋で、僕は再就職が最後の挑戦と思っている。ユー・・マリアは若い。僕達と違って選択肢は多く、限りない可能性がある」
ユーリ「デモ、選ブ道ハ、ヒトツダケ」
裕二「マリアは、恩返ししたいと言うが、僕達こそマリアが喜びだった」
ユーり「恩返シ、口実。裕二サンガ好キデ・・ズット繋ガッテイタイカラ・・」
裕二「僕もだ。マリア、一緒に暮したい。日本に来てくれるか?」
ユーリの表情が輝く。
ユーリ「行ク。地獄デモ、裕二サン一緒ナラ私ノ居場所」
裕二「ただ、時間をかけて、よく考えて欲しい。僕は老人で先は短い。我侭で、ユーリをトニーのような男に取られるのが耐えられずにプロポーズする。妻として日本に来てくれるか?」
ユーリ「考エル必要ナイ。OKダト決マッテル」
裕二、ユーリを抱きしめて唇にキスする。
裕二「じゃ、急いで式場探しだ」
ユーリ「式場?」
裕二「教会で二人だけの結婚式。それからハネムーンというのはどう?」
ユーリ「レガスピニ・・小サイケド素敵ナ礼拝堂知ッテル」
裕二「よし、それならレガスピに出発の準備だ」
ユーリ、涙を流しながら嬉しそうに笑う。
○JR久留米駅
秋の服装の正義、駅構内の公衆電話を掛けている。
正義「サトルか、俺だ」
サトル「ま・・まさ兄ぃ・・」
正義「話がある、大橋下の駐車場に来い」
サトル「は・・はい、すぐに・・」
正義「カラカンには気付かれるな」
サトル「わ・・わかりました」
正義「20分で来れるか?」
サトル「は・・はい」
正義「よし、必ず来い」
電話を切って、旅行鞄を持ち駅を出る。
○大橋下の駐車場
筑後川の川原に作られた駐車場。川の向こうを見詰める正義。ワンモアと書かれた倉庫が見える。
後ろでバイクが止まり、ヘルメットを外した寛太が正義に襲い掛かる。慌てて下がり、かわす正義。
正義「サトルの野郎、裏切ったな」
寛太「今は、俺のダチだ」
寛太の攻撃をうまく避けるが、明らかに正義の劣勢。
正義「前に下と言わなかったか?」
寛太「誰かさんのせいで、格下げされた」
正義「待て、俺を恨むのは筋違いだ」
寛太「ほう」
寛太、正義を睨みながら動きを止める。
正義「お前の見込み違いだろう。こちらが文句を言いたい」
寛太「僕も男だ、あんたの先入観や指示のせいにはしない。調査した範囲では間違ってなかったと言い訳もしない。九州事務所長から出向に格下げされたのも愚痴る気はない。そもそもが、あんたの話に乗ったのが間違いなんて、今更悔いても遅いのは充分に承知だ!」
正義「言い訳、愚痴としか聞こえないが・・ともあれ今回の件は痛み分けの貸し借りなしだ。八つ当たりはみっともない」
寛太「許せないのは・・ムッツリスケベの女に縁のない乱暴者とは誰の事ですか!」
正義「あっ!」
正義、怯む。
寛太「誰が、あんたの子分で日本鬼子ですか!」
正義、両手で寛太の動きを止めるようにして後ずさる。
正義「そう言えば、威しに名前を借りたような・・マリアが来たのか?まさか、実際に会うとは・・」
寛太「まさかって、そもそもあんたが野口さんにワンモアを教えた大本じゃないですか!」正義「いやぁ、世間は狭い。これも縁なんだなぁ〜」
寛太「笑ってごまかすな!」
正義「分かった、借りを返す。照美の誓約書を渡そう」
正義、胸ポケットから書類を出す。
寛太「それとこれとは別でしょう」
正義「誓約書が破棄されれば、照美は自由に俺の悪行を言える。お前に感謝してユーリの誤解を解くってわけだ。問題解決だろう?」
正義、考え込む寛太に書類を渡し、急ぎ足で土手の方に行く。
寛太「知ってます?高橋刑事と署長の車が崖から落ちて二人とも死んだそうですよ」
正義「ほう、初耳だ。事故なら仕方ねぇな」
寛太「ちゃんと、白状したんでしょうね」
正義「もちろん・・」
正義、舌打ちして振り向く。
正義「根津やマコトには言うなよ」
寛太「ばればれでしょう」
正義「まぁ、いいか。どうせ俺は嫌われ者だ」
寛太「似合ってます」
正義「うるせぇ、また会おう」
寛太「いやですよ、二度と会いたくない」
正義「それでも会うのが腐れ縁さ」
寛太、正義の旅行鞄を見る。
寛太「これから、どうするんですか?」
正義「アラスカに行って来る」
寛太「アラスカ?どうして」
正義「惚れた女と、一緒にオーロラを見ようと約束していた」
正義、鞄から位牌を出して寛太に見せる。
○「ワンモア」近くの筑後川土手
カメラが川を越えて対岸を映す。河原でボールを蹴っていた翔平(11)、土手のユーリに気付いて近づく。
翔平「マリア、何をしてるの?」
ユーリ「四葉ノクローバー」
翔平「わぁ、こんなに見つけたんだ」
ハンカチに四葉のクローバーが7本並べてある。ユーリは折紙に1本ずつ包んで、名前を書く。
ユーリ「幸セシンボル、プレゼントスル。裕二サン、マコトサン、照美サン、翔平君、カオルサン、私ノ分ト、ソレカラ・・」
翔平「寛太さんにも」
ユーリ、ためらいの表情で翔平を見る。
ユーリ「アノ人ニモ?」
翔平「寛太さん、とてもいい人だよ。サガン鳥栖ファンだし。僕が保証する」
ユーリ「ウーーン、翔平君ノ保証ナラ確カ。ソレナラ、コレ寛太サンノ分」
ユーリ、微笑んで折紙にKANTA SANと書く。
ENDマーク
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