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○太田川の川原
恵理の水死体が見つかった場所付近で腰を落とし、川面を眺めている寛太。
土手に止まった2台の車から5人の男が近づいてくる。
A「何しちょる」
寛太「息してる」
A「なんじゃ〜」
寛太「もんじゃ〜」
詰め寄る5人。寛太、立ち上がる。
B「なめとんのか!」
寛太「いや、川の水は汚い」
寛太は無視して歩き出す。5人が立ち塞がる。
C「吉備の仲間だろ」
寛太「吉備?あんたらは常盤会か」
A「お前、素人じゃねぇな」
寛太「邪魔だ、どいてくれ」
AがCとD、Eへ目で促す。
B「痛めつけて事務所へ運べ」
三人、殴りかかる。寛太、腰を沈め肘打ちと正拳で倒し、ナイフを出そうとしたAを蹴りで飛ばす。B、後ずさる。
寛太「いかんな、体が鈍っている」
寛太、倒れてる男たちを無視して空手の試技をする。
車から、若頭の吉沢が走ってくる。
吉沢「待て、待つんだ〜」
B「若、こ、こいつ、只者じゃありません」
吉沢「その人は〜カラカンさんだ〜」
慌てて5人、寛太から離れる。
吉沢「変な奴がうろついていると通報があり・・失礼しました」
汗だくの吉沢が荒い息で寛太に挨拶をする。
寛太「2ヶ月前に水死体が上がったのを知っているか?」
吉沢、考え込む。
吉沢「確か、豪雨で近所の主婦が・・」
寛太「その件を調べている」
吉沢「分かりました、お手伝いします」
吉沢、組員の5人を睨む。
吉沢「聞いた通りだ、手を出したお詫びに情報を集めろ」
5人「へぇ、やらせていただきます」
カラカンに深く頭を下げる。
○バギオ市内、バーハム公園の池
白鳥や海の動物を形どったボートが広い池に多く見られる。
池の中央付近に足踏みゴムボートの裕二とユーリ。
ユーリ「コレ、乗リタカッタ」
裕二「恵理とは?」
ユーリ「女二人、恥カシイ」
裕二「僕と一緒も恥かしいんじゃないか?」
ユーリ「何故?」
裕二「ほら、若いカップルばかり」
裕二、目で周囲のボートを見る。
ユーリ「私達、カップル」
ユーリ、甘えて裕二に凭れかかる。裕二、支えてユーリの肩を抱く。
裕二「大きくなったな」
ユーリ「胸?」
裕二、顔を赤らめて目を逸らす。
裕二「からかうな、大人になったという意味だ」
ユーリ「ズット大人。パパ、2年、来ナカッタ」
裕二「恵理が来ただろう」
ユーリ「パパニモ会イタカッタ」
裕二とユーリ、お互いを見る。
裕二「もう12年か・・」
ユーリ「忘レナイ・・」
○マニラの下町(回想)
裕二と恵理、日本人のガイドが歩いている。
後ろから痩せて汚れた服装のユーリ(9)が走って裕二の買い物袋をひったくる。
日本人ガイドが捕まえて殴る。地面に倒れるユーリ、手には袋から取ったバナナが握られている。
タガログ語でユーリに怒鳴るガイド。裕二が近づくとユーリが憎々しげに睨み叫ぶ。
ユーリ「日本鬼、クソッタレ!」
裕二、ユーリを強く抱きしめる。
○バーハム公園の池
池の中央、止まったままのボートの中で裕二とユーリは寝転び空を見ている。
ユーリ「パパ、泣イテイタ」
裕二「胸が痛くてたまらなかった。この子を守ると誓った」
ユーり「ドウシテ?ユーリ、トッテモ悪イ子」
裕二「絶望の純粋さに圧倒されたから」
ユーリ「判ラナイ」
裕二「恵理には通じた。それまで形だけの夫婦だった僕達が、ユーリを間に気持ちが繋がった」
ユーリ「恵理ママ、優シカッタ、デモ厳シカッタ」
裕二「僕は甘やかしているって、文句ばかり言われたよ」
ユーリ「年ニ数回シカ会エナカッタ」
裕二「本当はユーリを連れ帰って養女にしたかった」
ユーリ「ゴメンナサイ、パパト恵理ママ大好キ、デモ日本嫌イ・・」
裕二「いいんだ、セカンドペアレントシステムの環境は整っていたから」
ユーリ「学校ノ寮、ユーリ、恵マレテイタ。友達カラ日本ノ金持チノ子供ト思ワレテイタ」
裕二「金持ちじゃないけど、ユーリは自慢の娘だよ。マリアが名前を裕二と恵理からユーリにすると決めたのは嬉しかった」
ユーリ「今日カラ、マリア・ユーリ・バビーニョデス、ユーリト呼ンデクダサイ〜」
二人、笑う。
裕二「父は戦争中フィリピンの部隊にいて、終戦で日本に帰ったが、広島は原爆で地獄だった」
ユーリ「恵理ママノパパハ?」
裕二「同じ部隊の戦友で、真面目な人だったらしい。明らかな冤罪なのに刑務所で亡くなったそうだ」
ユーリ「フィリピン、戦争デ沢山ノ人、犠牲ニナッタ」
裕二「父は恵理に戦争中の事を話し、自分の代わりに今のフィリピンを見てきて欲しいと頼んだ。それで、僕と恵理がマニラに来た」
ユーリ「ソレガ、アノ頃」
裕二「日比復興協会に寄付する予定だった。しかし、あいつは貧しい人を救う活動と言いながら、ユーリを殴った。後で、詐欺団体と判った」
ユーリ「マミー死ニ、部屋ヲ追イ出サレタ。オ金、食ベル物ナクテ・・」
裕二「恵理が英語を話せたから、ボランティアのセカンドペアレント協会を見つけ、短い期間でまとまった。ユーリからの手紙や写真は全部ファイルにしてるよ」
ユーリ「ユーリモ。一生ノ宝」
裕二「翻訳ソフトを使って、恵理に確かめたら間違いだらけだったなぁ」
ユーリ「パパ、日本語デ良カッタ。ユーリ、日本語勉強シタ」
裕二「どうも語学は苦手で」
裕二、照れて頭をかく。
ユーリ「パパト恵理ママト、日本語デ話シタカッタカラ」
裕二「今からでも遅くない。大学へ行かないか?」
ユーリ「モウ大人。ユーリ、働ク」
裕二「そうだな、自分の道は自分でだな」
ユーリ「パパトノ出会イ・・」
裕二「うん?」
ユーリ「運命ト信ジテル」
裕二「そうかな」
裕二、起き上がって寂しそうな顔をする。
○コンビニの駐車場
深夜。車の運転席に寛太。書類を眺めながら携帯。
寛太「気になる点が多いんです」
正義「例えば?」
寛太「堤防の決壊を心配して川を見ていた人が、事故を目撃していません」
正義「警察には?」
寛太「この件で、ほとんど聞き取り捜査ない。バス停から寿橋というのも証明できません」
正義「それで話が変わるのか?」
寛太「野口恵理の体に打撲の跡があるんです。警察は高取橋の橋脚に衝突した打撲としています」
正義「下流の橋か」
寛太「雨を避けて、地元なら遠回りでも庇のある路地を通ります。この事故の報告書は雑過ぎる」
正義「手抜きだな」
寛太「担当の高橋刑事は、野口と高校で同級です」
正義「何!」
寛太「気になるでしょう」
正義「本当にアリバイは間違いないのか」
寛太「確かです」
正義「その刑事、怪しいな」
寛太「明日、警察に行って会ってきます」
正義「俺も人探しで忙しくなった。連絡は遅くなるかもしれない」
寛太「携帯を持ちなさいよ」
正義「あれは苦手だ。じゃ、頼む」
寛太、携帯を胸ポケットに入れ、コンビニ前のタバコ自動販売機を見る。
寛太「タスポがないから、店内か」
車から出る。
○ログハウス、裕二の寝室
同じベッドで離れて寝ている裕二とユーリ。
ユーリ「マミー、怒ルト、日本ニ強制送還スルト言イッタ。日本デ、身体バラバラニサレテ、日本人ノ子ニ付ケラレルッテ」
裕二「怖かっただろう」
ユーリ「マミー、日本大嫌イ。デモ日本人相手ノ・・悪イ仕事シテタ」
裕二「嫌うのは当然だ。国際結婚を口実に売られたんだから」
ユーリ「売ラレタ?」
裕二「ああ、協会で調べてもらった。相手は四十過ぎの男で、五百万を斡旋者に渡してマミーを買った」
ユーリ「マミー、ドウシテ?」
裕二「マミーの家に百万程度が支払われている。マミーは言葉も習慣も違う日本の農家で、周囲の偏見、義母の介護、畠仕事、それに夫の暴力に苦しんだ」
ユーリ「マミー、日本逃ゲタ?」
裕二「いや、義母が亡くなり、マミーのせいにされた。前の斡旋業者が中国女性を夫に紹介し、マミーは籍を抜かれて家を追い出された」
ユーリ「マミーヲ買ッタ人・・ユーリノ本当ノパパ?」
裕二「マミーは、斡旋業者に東京へ連れて行かれ、2年後に北陸の風俗店で警察に捕まり、強制送還されている。その時、妊娠していた」
ユーリ、裕二の胸に顔を押し付けて泣いている。
ユーリ「マミー、可哀想」
裕二「元の夫は再婚後、半年で自殺している。中国人の妻は家や土地を勝手に処分し、多額の借金を押し付けて行方不明になった」
ユーリ「パパ、日本、怖イ」
裕二「「ユーリは素敵な相手を見つけ、幸せになってくれ。恵理と僕と、それにマミーの願いだ」
小さく欠伸して、裕二が目を閉じる。ユーリ、裕二の寝顔を見ている。
ユーリ「ユーリ、パパダケ。、マミーモ恵理ママモ亡クナッテ・・パパダケ・・」
ユーリ、身体をずらして裕二に近づき、頬にキスする。
○県警、受付
高橋刑事(55)が受付で待つ寛太の前へ来る。
高橋「俺に用か?」
寛太「私、調査会社の者です。少し時間を頂けませんか」
寛太、名刺を高橋に差し出す。高橋、受け取って見る。
高橋「根津調査会社か。山陰じゃ大手だな」
寛太「元警察の方も多いです。実は保険会社の依頼で、野口恵理さんの事故を調査しています」
高橋の表情が硬くなる。
高橋「何の問題もない。処理済だ」
寛太「自殺の可能性はないでしょうか」
高橋、やや表情が和らぐ。
高橋「そこまでは分からん。しかし、2年以上の保険は関係ないだろう。既に2千万支払われているし」
寛太「損害保険で、不慮の事故だけが支払いの対象なんです。ご主人から請求はまだありませんが」
高橋「知らないんじゃないかな。事件性はないから、警察としては関与しない」
寛太「ご主人、野口裕二さんと高橋刑事は高校で一緒だったんですね」
高橋、警戒の表情になる。
高橋「それがどうした」
寛太「野口裕二さんが旅行中で面談が出来ないんです」
高橋「俺には関係ない。忙しいんだ、もういいか?」
寛太「はい、どうも有り難うございました」
高橋が部屋の中に戻り、寛太も警察を出る。
○コルディリェーラの棚田
バギオ郊外のバナウェ。乗り合いのジプニーから他の観光客と一緒に降りた裕二とユーリが棚田を眺める。
裕二「圧倒されるな」
ユーリ「世界遺産。天国ノ階段ト呼バレテル」
裕二「フィリピンに魅せられた恵理の気持ちが判る」
ユーリ「レガスピニアル、マヨン山モ恵理ママ好キ。パパニ見セタイ」
ユーリ、畦のクローバーから2本引き抜き、1本を裕二に差し出す。
裕二「四葉のクローバーだ。よく見つけたね」
ユーリ「恵理ママ、モット探スノ得意ダッタ」
裕二は手帳に挟んで胸のポケットに入れ、ユーリは髪留めに付ける。
ユーリ「日本人デモ、パパダケハ特別」
裕二「僕は平凡そのものだよ」
ユーリ「パパノ子供ノ頃、知リタイ」
裕二「親に見捨てられていた」
ユーリ「何故?」
裕二「両親は秀才の兄に期待し、僕に関心なかった」
ユーリ「オ兄サン、ズット前ニ亡クナッタ」
裕二「うん、ガンだった。ショックで母がおかしくなり、僕と恵理が同居する事になった」
ユーリ「理恵ママ亡クナリ、日本デ、パパ一人」
裕二「慣れているよ、一人には」
ユーリ「慣レルト気付カナイ。一人、トテモ淋シイ」
ユーリ、裕二の手を握る。
○ビジネスホテルの部屋
ベッドに腰掛けて携帯をかけている寛太。
寛太「高橋刑事は最近、借金を全額返済しています」
正義「おそらく間違いないな」
寛太「証拠はありません。ただ野口裕二の口座に振り込まれてた2千万はすぐに全額引き出されています」
正義「金の流れを確認してくれ、高橋刑事に渡っている筈だ」
寛太「判ったらどうします?」
正義「決めていない。とにかく本当の事を知りたい」
寛太、タバコを吸う。
寛太「マサさん、マコトさんとの仲違いの原因は何ですか」
正義「何だよ、今更」
寛太「やり方には問題があっても、マサさんはマコトさんの為に行動していたし、マコトさんもマサさんを信頼していた」
正義「オレとマコトじゃ、水と油だ。価値観が違いすぎる」
寛太「それはそうですが・・」
正義「久留米事変は知っているな。九州の闘争に関東、関西の組織が後押しして、とんでもない物が絡んできた」
寛太「巻き添えでマコトさんの家族が亡くなり、マコトさんもあんな体になったんですね」
正義「協定が結ばれ、オレは轟の親父にマコトの警護を任された。ただ、協定を知っていてマコトを狙うバカはいないと思っていた」
寛太「いたんですか?そのバカが」
正義「中国の組織だ。マコトが死ねば勢力図が変わる。そこに割り込もうと企んだ」
寛太「それで」
正義「俺は組織の5人全員を片付けた。ただ、運悪くマコトが屋上から見ていた」
寛太「そんな事が・・」
正義「マコトはオレに説教しやがった。命の価値とか重さとか言いやがって」
寛太「仕方ないですよ、マコトさんにとって自分より他の人の方が大切なのですから。分かりました、僕がマコトさんを説得します。仲直りしてください」
正義「それがなぁ、短気なオレが大人しくマコトの話を聞いてる筈ないだろう?」
寛太「たかが口喧嘩でしょう?いつまでも気にするマコトさんじゃないですよ」
正義「掠れ声が耳障りでうるせぇ、澄ました面は見たくねぇと怒鳴ってしまったんだよなぁ」
寛太、絶句する。
寛太「て、てめぇ、そんな事をマコトさんに!」
正義「マコトはマスクを被りオレに背を向けた。オレはそのままワンモアを離れた」
寛太「マコトさんは自分を恥じてるのじゃない、人に不快感を与えるのを恐れて」
正義「言うな、分かっている。恥じているのはオレだ。明日、また連絡する」
携帯を閉じ、タバコを灰皿で消して寛太は溜息をつく。
着替えようとして、また携帯が鳴る。寛太、画面を見て緊張の表情。
寛太「はい、高木です」
根津「おい、広島で何をやってる!」
寛太「えっ?調査の仕事ですが・・」
根津「誰からの依頼だ!」
寛太「それは・・守秘義務で・・」
根津「ほう、俺にも言えないと?」
寛太「ボス、九州事務所長として独自の活動を許してくれたはずです」
根津「撤回だ、話によってはクビだ!」
寛太「そんな・・どうして・・」
根津「マコトが絡んでるんだよ」
寛太、携帯を持つ手が震える。
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