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○ログハウス、裕二の寝室
朝、ベッドの片側で目覚めた裕二。横には枕が残っている。
居間の方からタガログ語が聞こえ、裕二はだるそうにベッドから降りて着替える。
○リビング
ソファーで携帯電話中のユーリ、起きてきた裕二を見て早口で携帯を切る。
ユーリ「オハヨ、パパ。スグ朝食」
裕二「コーヒーは?」
ユーリ「出来テル」
ソファーから立ち上がり、ユーリがキッチンに移動する。裕二も後に続く。
○キッチン
テーブルでコーヒーを飲んでいる裕二。ユーリ、ハムエッグを焼いている。
裕二「携帯は誰と?」
ユーリ「会社先輩。バギオノ人、家ニ帰ッテイル」
裕二「男性?」
ユーリ「ソウ」
裕二「会うの?」
ユーリ「断ッタ」
フライパンからハムエッグを皿に移す。
ユーリ「電源入レテメール確認シタ・・至急連絡ダッタ」
裕二「何があるか判らないから、電源は切らない方がいい」
ユーリ、テーブルに二人分のハムエッグを置き、フランスパンを添えてコーヒーを注ぎ足す。
裕二「明日、一人で帰るよ。空港の乗り継ぎだけだし」
ユーリ「イヤ!マニラマデ一緒」
裕二、何か言いかけて止め、黙ってハムエッグを食べる。ユーリも同じく黙々と食事をする。
○リビング
テレビでビデオの「おくりびと」が流れている。ソファーでぼんやりと観ている裕二。
パンフレットを手に自分の部屋からユーリが出てきて、テレビの方を見る。
ユーリ「マタ観テルノ?」
裕二「テレビ番組は言葉が判らないから。消していい」
ユーリ、テレビを消して裕二の隣に座り、パンフレットを広げる。
ユーリ「タクシー、ケノン道路ヲドライブ?ハルセマ山岳、ボモドック滝モ良イ所」
ユーリはパンフレットで観光地を指差すが、裕二は見ていない。
裕二「今日で終わりだし、市内をのんびり回ろう」
ユーリ「・・ジャ、次ノ機会ネ」
裕二「ああ・・」
歯切れの悪い裕二の返事に、ユーリが顔を曇らせる。
○バギオ市内、日本庭園
英霊慰霊碑を見上げる二人。
裕二「まだ日本人を恨んでいる人も多いんだろうな」
ユーリ「パパ関係ナイ、戦争悪イ」
裕二「戦後も日本人は酷い。景気の良い時は買春旅行が盛んだった」
ユーリ「パパ違ウ。日本人デ良イ人、イル」
ユーリに腕を引かれ、裕二、慰霊碑の前を離れる。
○展望台、マインズビュー・パーク
バギオを取り巻く山々見回す裕二とユーリ。
裕二「いい景色だな」
ユーリ「広島ニモ山アルノ?」
裕二「ああ、でも、こんなに見晴らしは良くない」
ユーリ「バギオ、高原都市デサマー・キャピタル呼バレテル。広島ト、ドチラガ大キイ?」
裕二「広島は都会だけど、僕がいるのは田舎だよ」
ユーリ「人口、少ナイ、デモ何デモアル。近ク、マンション・ハウス、昔ノ総督宅、トテモ大キイ」
裕二「マニラとバギオ、どっちがいい?」
ユーリ「バギオ良イ、マニラ、人多過ギ」
裕二「僕も、都会より田舎がいいな」
ユーリ、嬉しそうに裕二に体を寄せる。
ユーリ「バギオニモ、日本レストラン、アル。夜ノ食事、日本料理」
裕二「いいね」
二人、駐車場で待たせていたタクシーに乗り込む。
○シティ・マーケット
迷路のような道路に店が建ち並び、人が多い。
はぐれないようにしっかりと肩を抱き合って通る二人。
ユーリが何か話すが、喧騒で聞き返す裕二。
○バギオ大聖堂
礼拝堂から出てきた花婿、花嫁を皆が祝福している。
少し離れた場所からユーリと裕二が眺めている。
裕二「ユーリも結婚は教会だね」
ユーリ「友達結婚式、コノ前、出席シタ」
裕二「ユーリのウエディングドレスを想像してしまう」
裕二はユーリに笑いかけるが、ユーリの表情は硬い。
ユーリ「マダズット先・・キット・・」
携帯が鳴り、顔を顰めながらユーリが耳に当てる。英語で話す。
ユーリ「トニー、レストラン予約シテルッテ・・」
裕二「トニー?今朝の先輩か」
ユーリ「トテモ強引」
ユーリ、裕二に肩を竦めてみせ、電話を続ける。
ユーリ「パパモ一緒ニト言ッテル」
困った顔のユーリに、裕二が答える。
裕二「判った、僕も行くよ」
ユーリ、困惑した表情。電話で話し、切る。
ユーリ「セッションロード、ステーキノ店」
ユーリの口調がやや重い。
裕二「トニーとマリアか。ウエストサイド・ストーリーだな」
ユーリ「アンソニー、正式ナ名前。スペイン系デ、バギオノ家柄良イソウ。フィリピン大学バギオ校、卒業」
裕二「エリートだな。付き合ってるの?」
ユーリ「違ウ。普通ノ会社友達」
裕二「向こうは、どう思ってるかな」
裕二がからかうように言ったが、ユーリは首を振って否定する。
裕二「食事したら先に帰る」
ユーリ「パパ、私モ一緒。食事ダケ」
裕二「二人もご馳走してもらうんだ。若者の楽しむ場所があるだろう」
ユーリ「お酒、ダンス、好キ違ウ」
裕二「会社の人との付き合いも大事だよ」
ユーリ「パパ一緒ノ時間ノ方、トテモ大事」
二人、セッション通りの方へ歩く。
○バギオ空港
正義、空港ロビーを出て周囲を見回し、タクシーに乗り込む。
○セッションロードのレストラン「セントルイス」
権威ある一流レストランの雰囲気。入口ドアの前で裕二とユーリ、立ち止まる。
裕二「着替えて来た方が良いかな」
ユーリ「観光客、狙ワレル。普段着ガ良イ」
裕二「うん、そう聞いたけど、今日は動き回って汚れたから」
ユーリ「トニー、ガイド。分カッテル」
二人、中に入る。
○レストラン「セントルイス」店内
テーブルは半分以上が埋まっている。給仕が二人に近づき、ユーリと英語で話す。
ユーリが店の中を見る。スーツ姿のトニーが立ち上がり、手を振る。その席は二人用。
給仕が首を振って、裕二が奥へ入るのを手で止める。
ユーリ、一人で中に入り、トニーに強い口調で話す。トニー、なだめるようにユーリの肩に手を回そうとするが、ユーリは身体をずらして避ける。
肩をすくめて、トニーが奥の方を指差して何か言う。ユーリ、トニーが示した方に歩いていき、入口の裕二から見えなくなる。
トニー、入口近くの裕二の前に急ぎ足で来て、睨みながら高圧的に英語を喋る。
聞き取れず、首を振る裕二。
トニー、裕二の腕を掴んで、レストランのドアを開け、突き飛ばす。
トニー「ゲットアウト、ジャップ!」
ドアが閉まり、通りで尻餅をついている裕二を通行人が訝しげに見る。
立ち上がり、裕二は歩き出す。
○バギオ日本人会事務所
受付カウンターでバギオの市内地図を広げて所員に聞いている正義。
○リサール公園
夕暮れ。ベンチに腰掛け、チキンスナックを食べている裕二。
○バーナム公園
もう暗くなっている。池を眺めている裕二。
○ログハウスの外
坂道。裕二が歩きながら見上げたログハウスに灯がついている。
○ログハウス玄関
中に入る裕二。駆け寄るユーリ。
ユーリ「今マデ、何処・・心配シタ」
ユーリ、泣きながら裕二に抱きつく。
裕二「市内を散歩だよ。最後だから・・」
ユーリ、手を裕二の額に当てる。
ユーリ「熱、アル」
裕二「大丈夫」
ユーリ「大丈夫、違ウ!」
ユーリ、裕二の身体を支えて寝室に連れていく。
○裕二の寝室
ベッドに寝ている裕二。水の入ったコップと錠剤を持ってキッチンからユーリが現れる。
起き上がり、受け取って水と薬を飲む裕二。
ユーリ「アスピリン、コレシカナイ・・」
裕二「旅馴れてないから、環境の変化による疲労だろう」
ユーリ「明日、帰ルノ変更スル?」
裕二「一晩眠れば治る。あれからどうした?」
ユーリ、怒りの表情。
ユーリ「トニー、パパニ酷イ事シタ。叩イテ店出タ。パパ見ツカラナカッタ」
裕二「もしかして、何も食べてないのか?」
ユーリ「悔シク、オ腹空カナイ。会社ニ辞メル電話シタ」
裕二「どうして・・」
ユーリ「トニー、叔父サンノ会社。モウ彼ト仕事シナイ、会ワナイ」
溜息をついて、裕二はベッドに身体を寝かす。
裕二「ユーリの決めた事に口出しはしないが・・」
ユーリ「何故?パパノ言ウ事、聞ク」
裕二「もうユーリは大人で、僕は見守るだけ」
ユーリ「ソンナ事ナイ。パパ、モット一緒イタイ」
裕二「恵理とは違う。フィリピンには住めないよ」
ユーリ「移住駄目デモ、長期滞在デ1年、半年、1カ月一緒ニ」
裕二「今回を、最後にするつもりだ」
ユーリ、驚いた表情で息を飲む。
ユーリ「パパ、ユーリヲ棄テル」
裕二「違うよ。これ以上、ユーリの荷物になりたくない」
ユーリ「意味、判ラナイ。恩返シシタイ」
ユーリ、泣きながら裕二の体に縋りつく。
裕二「ユーリは喜びばかりくれたよ。望みは、ユーリが幸せになること」
ユーリ「パパ、オ願イ。離レタクナイ」
裕二「遠くに仕事が決まった。広島の土地を処分して、新しい生活で、今までのようにはいかない」
ユーリ「ソコ、近クニ空港、ナイノ?」
裕二「あるけど、フィリピン便はどうかな・・」
ユーリ「イヤ!、モウ会エナイ、イヤ!」
裕二「明日、話そう。今は体調が悪い」
玄関の方からドアの音。
裕二「玄関のドア、閉めた?」
ユーリ「閉メタ思ウ・・」
裕二「風で開いたのかな」
ユーリ「見テクル」
ユーリ、涙を拭いて寝室を出る。
○玄関
ドアが半開きになっている。閉めようと近づいたユーリの口を外からの手が塞ぐ。
呻くユーリを中に入ってきた正義がビニール紐で手足を縛る。
ユーリ「パパ、逃ゲテ!」
裕二、寝室から廊下へ出る。素早く近づいた正義が裕二の首の後ろを手刀で打つ。
裕二、倒れて気絶する。
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