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○浴室
バスタブの中。手足をビニール紐で縛られた裕二がシャワーを顔に浴びて目を開ける。
傍で屈み、覗きこむ正義。隅の柱に縛られて動けないユーリ。
正義「水より熱湯にすれば良かったな」
裕二「あんたは・・」
裕二、咽びながら正義を見る。
正義「湯田十三、お初だ」
ユーリ「裏切リ者ユダ、人殺シ十三、日本鬼!」
裕二、興奮しているユーリの方を向く。
裕二「ユーリの知り合い?」
ユーリ「違ウ、パパ、私ジャナク・・デモ・・」
ユーリ、言葉を濁し、正義を睨む。
ユーリ「何故、ココニ!」
正義「とぼけるな!俺から逃げてバギオに来たんだろ」
ユーリ「何ノ事?ユダ、関係ナイ」
不審気に、裕二が二人を見比べる。
裕二「ユーリが何をしたか知らないが、乱暴はやめてくれ」
正義「馬鹿野郎、お前が相手だ」
裕二「えっ?」
正義「高橋に恵理さんを殺させたな」
裕二「高橋?恵理さんって・・あんたは何者だ」
ユーリ、泣き声になる。
ユーリ「恵理ママ、コノ日本鬼ニ騙サレテタ」
正義「へっ、ガキに俺たちの何が判る。恵理さんが死んだら亭主を咥え込みやがって」
ユーリ「下衆、ヤクザ、人デナシ!」
正義「中国じゃ日本鬼と言わない。日本鬼子だ。女に忌み嫌われ、ムッツリスケベで俺より乱暴者のカラカンという子分が日本にいる。恵理さん殺しを突き止めた褒美に、テメエは日本に引き摺っていって、カラカンの餌だ」
裕二「待て、恵理の事なら、ユーリは関係ない。放してやってくれ」
正義「そうはいかねぇ、恵理さんにあれだけ可愛がられたのに、恵理さんを殺したお前と一緒にいるってのは許せん」
ユーリ「知ラナイノ?恵理ママ、事故デ死ンダ」
正義「事故に見せかけ、こいつが刑事とグルになって殺した」
正義、裕二の髪を掴む。
ユーリ「パパガ恵理ママヲ?バカバカシイ」
裕二「そもそも、僕が恵理を殺す理由がない」
正義「あるさ、恵理さんに離婚を要求された」
裕二、髪を掴まれたままの首を動かして正義を見ようとする。
裕二「どうしてそれを?」
正義「俺と約束していた」
裕二「そうか」
裕二の体から力が抜ける。
正義「吐けよ、吐かなきゃ熱湯、吐けば水風呂だ」
裕二「ユーリを逃がしてくれるか?」
正義「いいだろう、約束する」
裕二「わかった、僕が殺した」
正義、裕二を浴槽の下の方に押し込み、水のコックを捻る。
ユーリ「嘘ヨ、パパ、私ヲ助ケル為・・オ願イ、日本鬼子カラカンノオモチャニナル!恵理ママノオ金、アゲル!、パパヲ殺サナイデ!」
正義「恵理さんの金?」
正義、裕二からユーリに視線を移す。
ユーリ「恵理ママノ保険金。22万ドル。全部アゲルカラ、パパヲ・・」
正義「2千万だな。なんでお前に?」
ユーリ「受取人、私ダカラト・・パパガ銀行ニ振リ込ンデ・・」
裕二「その金は、ユーリのものだ。あんたが、恵理の事を、思っているなら、手をつけないでくれ」
正義「受取人はお前だ」
裕二「保険会社が、第三者受取を、認めなかった・・僕が死んでも、大阪の義姉に、ユーリへ振り込むよう頼んだ」
浴槽の水は、裕二の腰まで来ている。
ユーリ「パパイナクテ、オ金、欲シクナイ・・」
正義「電話は・・リビングにあったな」
正義、戸惑った表情で浴室を出て行く。
○リビング
いらいらした表情で受話器を耳につけている正義。
正義「俺だ。例の2千万は違う・・何?」
正義、唖然とした表情。
正義「「なんで、マコトが・・うるせぇ、ちゃんと説明しろ」
電話口に怒鳴る正義。
正義「そんな・・いや・・まだ・・」
苦虫を潰したような表情になる。
正義「脅して・・あ、水が!」
正義、焦って電話を切り、浴室に駆ける。
○浴室
バスタブの水が、裕二の首まで来ている。
裕二「ユーリだけは・・信じてくれ。恵理を・・殺してない」
ユーリ「勿論ソウ、疑ッテナイ。湯田、狂ッテル」
裕二「ユーリ・・幸せに・・」
水が裕二の口までくる。
ユーリ「ユダ、水止メテ!パパノ代ワリ、私殺シテ!」
正義、駆け込んで裕二を抱え上げ、バスタブの外に出す。
○裕二の寝室
ベッドに横たわる裕二。心配そうに世話をするユーリ。正義はドアの近くで二人を見下ろしている。
正義「確認したい事が出来た」
裕二「僕はどうなってもいい・・ユーリを・・」
正義「ユーリには何もしない。だから教えろ」
裕二「何を・・」
正義、咳払いをする。
正義「どうしてマコトと知り合った?」
裕二「マコト君?リサイクルの専門家だと・・恵理に教えてもらった・・」
正義「恵理さんに?」
考えて、思い当たった様子の正義。
裕二「山中の不法投棄で・・撤去の許可も予算もなく・・自然保護、住民の生活の為・・何とかしたくて・・見かねた恵理が、・・知り合いの尊敬する人だから相談しろと・・」
正義「名前だけで知り合えるのか?」
裕二「パソコンで・・マコト、ワンモア、四葉、リサイクル・・検索して掲示板を見つけた。マコト君の尽力で・・解決した・・それ以来、チャットで親しくなった・・」
正義「それで・・恵理さんの事故をマコトに相談したのか・・」
裕二、正義の方を見た。正義、困惑した表情で視線を避ける。
裕二「あんたは・・マコト君と・・親しいのか?」
正義「いや、ちょっと昔に縁があって・・今は俺がこんなだから絶交された」
裕二「高橋の説明は・・納得いかない部分が多かった。マコト君に話したら・・意図的な歪曲で・・出来るのは警察幹部だと・・マコト君の知り合いの・・調査会社が当日の行動を調べ・・キャリアの署長が・・接待で飲酒して運転したのを・・掴んだ」
正義「高橋刑事は」
裕二「高校の同期だが・・嫌がらせの記憶しかない。定年前で・・再就職先の斡旋、署の裏金での借金清算で・・署長に協力したようだ」
正義「それを知って、あんたは泣き寝入りするつもりか!」
裕二「恵理は・・昔の事で・・警察、検察、裁判・・マスコミ、無責任な野次馬を・・嫌っていた。証拠はない・・訴えても・・恵理は喜ばない」
正義「それはそうかもしれないが・・」
裕二「マコト君も・・同じ意見だ。因果応報、天知る、地知る、吾知ると」
正義、不満そうに首を振る。
正義「マコトからワンモアへ再就職を勧められているのか?」
裕二「よく知ってるな。広島の家を処分して・・久留米に行くつもりだ。事故の日は・・土地の件で死んだ兄の家族へ・・相談に行った。整理がついたら・・恵理と財産を折半して離婚の手続きをする・・筈だった」
正義「判った。俺の勘違いだ。迷惑をかけたな」
正義、部屋を出て行こうとする。
裕二「待ってくれ・・あんたと恵理は?」
正義、振り返らず答える。
正義「俺は・・恵理さんが好きだった。それ以上言わせないでくれ」
裕二「それなら・・」
裕二、ユーリを見る。
裕二「居間の・・仏壇に・・」
ユーリ「駄目、コンナ奴!」
裕二「恵理が喜ぶ・・」
ユーリ、正義を睨んで部屋を出る。正義、後に続く。
○リビング
簡易仏壇に手を合わせる正義。後ろで怒っているユーリ。
ユーリ「全ク、パパ、オ人好シ過ギル!」
正義「お前ら、まだ男と女じゃないのか?」
ユーリ「何テコトヲ!」
正義「恵理さんが言ってたぜ。ユーリの初恋の相手は裕二で、今でも継続してるってな」
ユーリ「恵理ママ・・ソンナ事・・」
振り向いて、困惑したユーリを正義が笑う。
正義「微笑ましいってな。しかし、もう恵理さんはいない。父親を知らない女と、子供のいない男の親子ごっこなんて、大人になりゃあ不自然だ。一緒になっちゃいなよ」
ユーリ「ダケド・・パパ・・」
正義「パパ、ユーリから、裕二、マリアの大人になりゃいいんだ。あいつは殺されかけてもお前を守ろうとした。お前は、あいつを助ける為ならどうなってもいいと言った。一緒にならない手はないぜ」
ユーリ「デモ・・」
正義「おっ、その裕二さんがお前を呼んでるぜ」
ユーリ「エッ?」
ユーリ、立ち上がって裕二の部屋の方へ動く。正義、簡易仏壇から位牌と遺影を取り出し、玄関に走り去る。
ユーリ「アー!泥棒!」
ユーリ、追おうとして倒れる。
寝室から裕二が現れ、ユーリが抱きつく。
ユーリ「ゴメンナサイ、湯田、恩ヲ仇・・恵理ママノ・・」
裕二「それで・・いいのかもしれない」
ユーリ「パパ、マダ起キテハ駄目」
裕二「もう・・大丈夫」
ユーリ「ベッドデ、休ム」
ユーリに抱えられて裕二、寝室に戻る。
○寝室
ベッドに横たわる裕二。ユーリがシーツを重ねて裕二の身体をさする。
裕二「水に浸かって・・身体が冷えた・・明日になれば治る」
ユーリ「前カラ病気。無理シナイ、帰国、延バシマショウ」
裕二「そうだな・・そうするよ」
ユーリ「良カッタ」
ユーリ、下着だけになってベッドに入り、裕二の身体に抱きついて暖める。
ユーリ「マダ、パパノ体、冷タイ」
裕二「湯田との話し・・聞こえた。ドアをちゃんと・・閉めてなかったから」
ユーリ「適当言ッテ、位牌盗ム隙、狙ッテイタ」
裕二「そうだな」
裕二、目を閉じる。躊躇いながら、ユーリが裕二の顔に頬をすり寄せる。
ユーリ「裕二サン・・呼ンデイイ?」
裕二「いいよ」
ユーリ「マリア・・呼ンデクレル?」
裕二「これからマリアと呼ぶ・・」
ユーリ「ソシテ・・裕二サント・・・・日本デ・・」
ユーリ、言葉を切る。裕二、眠りに落ちている。
○寝室
朝、ベッドにはユーリ一人。ユーリ、起きてリビングへ行く。
○リビング
誰もいない。キッチンから物音。ユーリ、キッチンに向かう。
○キッチン
裕二がフライパンでフレンチトーストを焼いている。
裕二「おはよう、もう少しだ」
ユーリ「ゴメンナサイ、パパ。私、寝坊」
裕二「あれ、名前で呼ぶんじゃなかったか?マリア」
ユーリ「アッ・・裕・・二・・サン」
裕二「着替えてきたら?朝から目に毒だよ」
下着姿のユーリ、赤面して自分の部屋へ行く。
○リビング
ソファーで寛ぐ裕二。ユーリがコーヒーを持って、裕二の横に座る。
ユーリ「身体ドウ?」
裕二「マリアの看病のお蔭で気分爽快だよ」
ユーリ「飛行機、キャンセルシテイイ?」
裕二「もう連絡したよ。代わりの便は決めていない。いつでも今は空席があるそうだ」
裕二、コーヒーを飲みほして、ユーリを見る。
裕二「血の繋がった親子でも、子の成人で子離れ、親離れをする。恵理にとってきっかけは最後の恋で、僕は再就職が最後の挑戦と思っている。ユー・・マリアは若い。僕達と違って選択肢は多く、限りない可能性がある」
ユーリ「デモ、選ブ道ハ、ヒトツダケ」
裕二「マリアは、恩返ししたいと言うが、僕達こそマリアが喜びだった」
ユーり「恩返シ、口実。裕二サンガ好キデ・・ズット繋ガッテイタイカラ・・」
裕二「僕もだ。マリア、一緒に暮したい。日本に来てくれるか?」
ユーリの表情が輝く。
ユーリ「行ク。地獄デモ、裕二サン一緒ナラ私ノ居場所」
裕二「ただ、時間をかけて、よく考えて欲しい。僕は老人で先は短い。我侭で、ユーリをトニーのような男に取られるのが耐えられずにプロポーズする。妻として日本に来てくれるか?」
ユーリ「考エル必要ナイ。OKダト決マッテル」
裕二、ユーリを抱きしめて唇にキスする。
裕二「じゃ、急いで式場探しだ」
ユーリ「式場?」
裕二「教会で二人だけの結婚式。それからハネムーンというのはどう?」
ユーリ「レガスピニ・・小サイケド素敵ナ礼拝堂知ッテル」
裕二「よし、それならレガスピに出発の準備だ」
ユーリ、涙を流しながら嬉しそうに笑う。
○JR久留米駅
秋の服装の正義、駅構内の公衆電話を掛けている。
正義「サトルか、俺だ」
サトル「ま・・まさ兄ぃ・・」
正義「話がある、大橋下の駐車場に来い」
サトル「は・・はい、すぐに・・」
正義「カラカンには気付かれるな」
サトル「わ・・わかりました」
正義「20分で来れるか?」
サトル「は・・はい」
正義「よし、必ず来い」
電話を切って、旅行鞄を持ち駅を出る。
○大橋下の駐車場
筑後川の川原に作られた駐車場。川の向こうを見詰める正義。ワンモアと書かれた倉庫が見える。
後ろでバイクが止まり、ヘルメットを外した寛太が正義に襲い掛かる。慌てて下がり、かわす正義。
正義「サトルの野郎、裏切ったな」
寛太「今は、俺のダチだ」
寛太の攻撃をうまく避けるが、明らかに正義の劣勢。
正義「前に下と言わなかったか?」
寛太「誰かさんのせいで、格下げされた」
正義「待て!俺を恨むのは筋違いだ」
寛太「ほう」
寛太、正義を睨みながら動きを止める。
正義「お前の見込み違いだろう。こちらが文句を言いたい」
寛太「僕も男だ、あんたの先入観や指示のせいにはしない。調査した範囲では間違ってなかったと言い訳もしない。九州事務所長から出向に格下げされたのも愚痴る気はない。そもそもが、あんたの話に乗ったのが間違いなんて、今更悔いても遅いのは充分に承知だ!」
正義「言い訳、愚痴としか聞こえないが・・ともあれ今回の件は痛み分けの貸し借りなしだ。八つ当たりはみっともない」
寛太「許せないのは・・ムッツリスケベの女に縁のない乱暴者とは誰の事ですか!」
正義「あっ!」
正義、怯む。
寛太「誰が、あんたの子分で日本鬼子ですか!」
正義、両手で寛太の動きを止めるようにして後ずさる。
正義「そう言えば、威しに名前を借りたような・・マリアが来たのか?まさか、実際に会うとは・・」
寛太「まさかって、そもそもあんたが野口さんにワンモアを教えた大本じゃないですか!」正義「いやぁ、世間は狭い。これも縁なんだなぁ〜」
寛太「笑ってごまかすな!」
正義「分かった、借りを返す。照美の誓約書を渡そう」
正義、胸ポケットから書類を出す。
寛太「それとこれとは別でしょう」
正義「誓約書が破棄されれば、照美は自由に俺の悪行を言える。お前に感謝してユーリの誤解を解くってわけだ。問題解決だろう?」
正義、考え込む寛太に書類を渡し、急ぎ足で土手の方に行く。
寛太「知ってます?高橋刑事と署長の車が崖から落ちて二人とも死んだそうですよ」
正義「ほう、初耳だ。事故なら仕方ねぇな」
寛太「ちゃんと、白状したんでしょうね」
正義「もちろん・・」
正義、舌打ちして振り向く。
正義「根津や野口には言うなよ」
寛太「ばればれでしょう」
正義「まぁ、いいか。どうせ俺は嫌われ者だ」
寛太「似合ってます」
正義「うるせぇ、また会おう」
寛太「いやですよ、二度と会いたくない」
正義「それでも会うのが腐れ縁さ」
寛太、正義の旅行鞄を見る。
寛太「これから、どうするんですか?」
正義「アラスカに行って来る」
寛太「アラスカ?どうして」
正義「惚れた女と、一緒にオーロラを見ようと約束していた」
正義、鞄から位牌を出して寛太に見せる。
○「ワンモア」近くの筑後川土手
カメラが川を越えて対岸を映す。河原でサッカーボールを蹴っていた翔平(11)、土手のユーリに気付いて近づく。
翔平「マリア、何をしてるの?」
ユーリ「四葉ノクローバー」
翔平「わぁ、こんなに見つけたんだ」
ハンカチに四葉のクローバーが7本並べてある。ユーリは折紙に1本ずつ包んで、名前を書く。
ユーリ「幸セシンボル、プレゼントスル。裕二サン、マコトサン、照美サン、翔平君、カオルサン、私ノ分ト、ソレカラ・・」
翔平「寛太さんにも」
ユーリ、ためらいの表情で翔平を見る。
ユーリ「アノ人ニモ?」
翔平「寛太さん、とてもいい人だよ。サガン鳥栖ファンだし。僕が保証する」
ユーリ「ウーーン、翔平君ノ保証ナラ確カ。ソレナラ、コレ寛太サンノ分」
ユーリ、微笑んで折紙にKANTA SANと書く。
ENDマーク
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