第十二章 夏風邪

 月曜日、4時を過ぎてもひめは現れず僕はアベックモードなのに一人で待ち続けた。やっとひめが入ってきたのは5時前だった。

(ひめ)おはようございます
(グラタン)おはよう!きてくれたね
(ひめ)はい。
(グラタン)よかった(笑)
(ひめ)すみません
(グラタン)どうして?
(ひめ)風邪をひいてしまったらしく
(グラタン)え!
(ひめ)起きれませんでした。
(グラタン)大丈夫?
(ひめ)はい。
(グラタン)無理しないで。
(ひめ)はい。
(グラタン)今日ね、ダリみてきたよ
(ひめ)どこでですか?
(グラタン)福岡美術館、すごいね
(ひめ)はい。
(グラタン)作品は・・ポルト・リガトの聖母
(ひめ)女性が海の上に立っている絵ですか?
(グラタン)浮いてる絵・・マリアとキリスト
(ひめ)分かりました。
(グラタン)宗教的だね、でも本と違う絵だった
(ひめ)ダリは謎が多い画家ですので。
(グラタン)らしいね、でも僕はひめの絵がいい(笑)
(ひめ)グラタンさんはお描きにならないのですか?
(グラタン)無理だよ(^_^;)
(ひめ)(笑)
(グラタン)ひめね、敬語はいらないよ。りんと話すように僕に話して
(ひめ)ほとんど変わらないですよ
(グラタン)そうなの?
(
ひめ)はい。 ほとんど。
(グラタン)うーーーん、そうなのか
(
ひめ)りんとグラタンさん、さんがつくぐらい。
(グラタン)じゃ、さんは抜いて
(ひめ)私呼び捨てすきではないの。
(グラタン)親しみの表現でもあるよ
(ひめ)少しくだけた話方しますからダメですか?
(グラタン)ひめの望むままに(笑)
(ひめ)(笑)
(グラタン)ひめはいつも何をしてるの?絵以外に
(ひめ)今はりんのアシスタントとかですね。
(グラタン)りんの写真は進んでる?
(ひめ)新しいカメラが来たのでデータとるのが忙しいようです
(グラタン)燃えてるの?りん
(ひめ)燃えています(笑)
(グラタン)ひめの絵はすすんでる?
(ひめ)まあまあ、です(笑)
(グラタン)よかった、10月が楽しみだね
(ひめ)絵はたぶん、来年になるとおもいますよ。
(グラタン)そうなの・・残念だね
(ひめ)いいえ。ほっとしています。
(グラタン)自信作じゃないの?
(ひめ)代表とりんと一緒にはまだまだ出展できません
(グラタン)みてないから判らない
(ひめ)そうでした(笑)
(グラタン)いつまで、山梨?
(ひめ)今月はいます。
(グラタン)東京より・・山梨がひめに似合う
(ひめ)私の実家は御殿場です。
(グラタン)御殿場・・よくしらない
(ひめ)田舎です、富士山しかありませんよ(笑)
(グラタン)富士山が一番!
(ひめ)ほたるとかきれいでした。
(グラタン)いいところだね・・ひめに似合う
(ひめ)私が子供の時は部屋の中まで入ってきました。
(グラタン)いいね・・様子が浮かぶ。良い環境でそだったんだ
(ひめ)私は東京の水がいまだに飲めません。
(グラタン)まずいよ・・東京の水。飲まなくていいよ
(ひめ)コンビニで水を買っています(笑)
(グラタン)でも、山梨の水はいいんじゃない?
(ひめ)そうですね。でも、飲んではいません(笑)
(グラタン)そのまま山梨にいたら?
(ひめ)でも今は井の頭が好きですよ(笑)
(グラタン)そうなんだ(笑)ひめが好きならいいよ
(ひめ)絵の具を揃えるにも便利ですし。
(グラタン)吉祥寺にいく機会があったら・・
(ひめ)はい
(グラタン)ひめ推薦のラーメン食べに行こう(笑)
(ひめ)そうですね(笑)いちえんというラーメン屋さんです。
(グラタン)新宿はあまり行かない?
(ひめ)あまり好きな所ではないので、いかないですね。
(グラタン)僕は映画が好きだったからよく行ったよ
(ひめ)映画は大好きです。
(グラタン)よかった、趣味が合った(笑)音楽は?
(ひめ)好きです。
(グラタン)僕は中島みゆきファン
(ひめ)邦楽はあまり知らないのです。
(グラタン)洋楽?どんなの?
(ひめ)絵を描くとき流すので歌詞がわかると
(グラタン)クラシック?
(ひめ)いいえ、エンヤ、とかケイトブシュとか聖歌とかが多いです。
(グラタン)クリスチャン?
(ひめ)はい。
(グラタン)子供の頃、日曜学校で教会に行ってたよ
(ひめ)教会は好きなのですがミサは苦手です。
(グラタン)なんだか、教会とひめというのは合う・・かな?
(ひめ)私が絵を描くきっかけになったのはサロメのお話です。
(グラタン)サロメ・・
(ひめ)サロメがかわいそうで
(グラタン)旧訳だね
(ひめ)はい、絵を描きたくなったきっかけです。
(グラタン)そう、ひめって・・感受性がつよいんだね
(ひめ)つよすぎるかもしれません(笑)
(グラタン)いいことだけど、傷つきそうで・・
(ひめ)つかれます。
(グラタン)でも悲しみが大きい人は喜びも大きいって
(ひめ)おかげで絵が描けると思ってます。
(グラタン)だから・・見たいね・・ひめの絵
(ひめ)私は女性の顔がモチーフです
(グラタン)自画像?
(ひめ)いいえ、この頃はりんがモデルです(笑)
(グラタン)ーーーーリン?
(ひめ)怒ったり笑ったり表情がいろいろ変わるから(笑)
(グラタン)やさしいイメージ・・・だね(露骨なごますり)
(ひめ)(笑)
(グラタン)その絵も見たい
(ひめ)りんには不評です(笑)
(グラタン)じゃ、見てリンをからかいたい(笑)
(ひめ)すいません、少し熱があるみたい。
(グラタン)ごめん・・うっかりしてた・・
(ひめ)いいえ、こちらこそごめんなさい。
(グラタン)明日も会える?
(ひめ)がんばってみます。
(グラタン)やすんで・・
(ひめ)もし、だめそうならメールだしておきますがいいですか?
(グラタン)うん・・お願い
(ひめ)はい。
(グラタン)じゃ・・明日
(ひめ)では、すみませんが。
(グラタン)とんでもない
(ひめ)失礼します。
(グラタン)僕が・・つい
(ひめ)いいえ、
(グラタン)またね・・ひめ
(ひめ)はい、それでは。

 次の日、ネットに入るとひめではなく凛からメールがきていた。

#凛

題名:グラタン殿へ。 凛


 おひさです。 そのせつはどうもぉ!

 ひめさんですが、風邪ですね。 ちなみに私のせいではありません。

 チャットはお休みさせて欲しいそうです、ひめは体があんまし丈夫ではありませんので回復にどれくらいかかるか分からないのでチャットが出来る時にメールするはずです。

 医者にはきちんと行かせましたので御安心を。

 それでは。
                                 <<凛>>

 ひめの風邪をこじらせたのは僕とのチャットかもしれない。がっかりするより調子に乗って相手の事を考えなかった自分を恥じた。それにしても、凛の文面がのよそよそしさが気になった。いったい、凛は僕の事をどう思っているんだろう?本当にひめの相手として認めてくれてるのだろうか?
 メールの返信にひめの調子の確認と、メールの感想を書いた。

1 #凛

題名:そうかなぁ? 凛。

 メールありがとう。

 そうかぁなぁ、他人行儀かいなぁ・・・そう? フ〜ン。

 10月の工房展ねぇ、延期だよ、延期、来年に。 ねぇ〜ここまで来てさ。ハァ〜。
 理由は作品が上がらない、うちの工房として今回は力をいれなきゃいけないんだけど、それに見合った作品が上がらない・・・。
 私もひめもあとはグラタンの知らない連中も上がらない・・・。
 だから延期にしました、会場は代表の知り合いに権利を譲ったんですよ。
 まあ、会場も都心から離れてたしね、今は渋谷あたりで会場探ししてるはず。
 作品に関しては代表はすごくうるさいから(当たり前だけど。)
 優遇されている分も気を引き締め直して掛かりますよ。

 ひめはねぇ、夏風邪だね。 あの子は治りが遅いから、、まあ気長に待っててあげてね。

 たださぁ、約束は守ってあげなよ・・拡大解釈して傷つけないでね。
 工房展にくるとしてもきちんと了解とったほうがいいかもね・・・。

 ひめにしてもここで頑張らないとキツイ言い方だけど工房もお金をだしているから立場が悪くなりかねないからね、これは私がかばっても仕方ないしね、代表の考えもあるし。
 いろいろ私も頭が痛いよ・・・。
 工房でも私とひめは待遇がいいのね、パソコンも使いたい放題だし、でも私達は作品を創っていかなきゃいけないんだよね。 厳しい世界なんよ。特にひめは絵だから競争相手が多いのね。
 新しい子でパステル画の子が伸びてきてるからね・・・ 心配だね。
 やっぱりさぁ工房としても実力のある子にお金がいくんだよ、ひめも実力はあるんだけどまだ実力を発揮してるとは言い難いのね、これは悪口じゃないからね!
 ただグラタンに分かって貰いたくてね、あの子の本分はここに居るかぎりは絵を描く事だっていう事を。 

 私は工房の運営ディレクターも兼ねてるから厳しい言い方したけど、今回の事(私とひめの事件ね。)代表から「本分を忘れてないか?」と言う厳重注意がきたんだよ・・・。
 芸術はカッコじゃないからさぁ、自分の表現を仕事にしたんだからいろいろ厳しいんだよ。
 代表は人のプライバシーには口は出さない人、その人が口出してきたと言うことは私とひめの作品が落ちてると言うこと。
 普段あまり言わない人に言われると辛いものがある・・・。

 私としてはメールもしばらくはお預けにしたいと思います・・・。
 私達がいる社会は特種な世界(因果な、ヤクザな世界とも言う(笑))
だっていう事を御理解下さいね。
まあ、そんなこんなで、じゃあね。                   
                                  <<凛>>

     

 リンのいう厳しい世界でひめが生き残るには、僕の存在は邪魔なのかもしれない。それなら僕はひめとのチャットを諦めなければならないだろう。しかし、身を引く以外にひめの為になることが出来ないだろうか。悩みながら、またリンにメールを書いた。

#凛

題名:気にしないで。 凛

 グラタン、状況が分からないのは当たり前なんだからさぁ、気にしないでね。
 私こそ余裕がなかったよ、ごめんね。
 なんかいつもグラタンのあげあし取ってるみたいになって悪いと思ってる。

 プラスの存在かぁ、やさしいね。 ありがとう、嬉しく思うよ、ひめに必ず伝えるから。だから「力になれなくて悔しい。」とか言わないでくれよ!
 私達は精神的に難しいと思うからねぇ、、グラタンこそ巻き込まれないでね。
 これは本当にね、嫌な言い方ではなくてね、私達のような人種はむずかしいと思うから・・・
 だからと言って孤独でもないんだなぁ、仲間もいるし、友人もいるし、
 派手な催しもパティーもあるし、ヘンテコな世界ですよ・・・
 たださぁ(勘違いしないでね!嫌な言い方では決してないよ!)私達は普通の暮らしではないからね、巻き込まれて傷つくのはグラタンだと思うから・・・。
 そうゆう意味では私達は一般常識に欠けてるし・・・。 
 多分理解できない世界だと思うよ。 気に触ったらごめんね。

 今日は寝るの朝の9時位になりそうだぁ、、でも今日はお休み。
 昨日は東京で宝塚観劇(友人がタカラジェンヌ)してからその娘の撮影。
 で、工房に寄って山梨へと、、へとへと・・・。

 ハードだけど充実はしてる。(本分さえ忘れなければ!(笑))
                                  <<凛>>



  凛が本当は何を言いたいのかわかる。ひめや凛と僕とでは住む世界が違うんだ。でも、凛は特殊な世界に不安を感じて、一般の世界に自分が通用するのかを知りたがった。それがチャットだったのだろう。

 チャットの世界で心が通い合えば、それはひめにとっても悪いことじゃない筈だ。確かにひめを看病することは出来ない。現実のひめを守ることは出来ない。でも、きっと励まし慰めることは出来る。結局、チャットだから凛の心配は関係ないと無視した。