| 「「大阪から来た健太くん」 小学校3年になってクラス替えがありましたが、僕は2年の時と同じ3組になりました。 担任は2年の時に1組の先生だった吉田和子先生ですが、家庭訪問の後でお母さんは若くてきれいだけど、少し派手だと言ってました。 クラスは最初、もとの1組、2組、3組の友達で固まっていましたが、だんだん慣れてくると、元1組の中田君が中心になりました。 僕は体が小さくて、緊張すると言葉がどもってしまいます。中田君はすぐに僕を、チビ、ドモリと呼んでからかうようになりました。 みんなの前で大声で馬鹿にされると泣きたくなります。言い返すと、どもるんです。それが面白くて、みんなが笑います。中田君が怖くてもと3組の友達は僕と話さなくなりました。 僕は、何を言われても我慢しました。すると消しゴムがなくなったり、椅子に押しピンが置かれたりひどい事が毎日起こりました。僕が困ったり、驚いたりすると中田君達がはやしたてます。学校に行くのがいやでした。 あとで聞いたんですが、もと2組の広田さんが中田君と僕のことを吉田先生に話したそうです。 それで吉田先生は中田君に聞いたあと、僕を職員室に呼びました。 「村上君、もっとみんなと仲良くしないと駄目よ。先生はね、みんなが良くなるように真剣に考えているの。あなたに友達がいないのは、あなたが努力しないからよ」 「あ、あの・・ぼ、ぼくは・・なか、なかよく・・したいんです」 「そのどもる癖を直すの。だから嫌われるのよ。せっかく中田君が友だちになってあげようとしているのに、村上君は相手にしないそうじゃないの。私から中田君に頼んでおいたから一緒に遊んでもらいなさい」 中田君は1年の時から先生のお気に入りだったそうです。 僕は、中田君に苛められている事を話せませんでした。 先生に頼まれたからと言って、中田君達は昼休みや放課後に僕を呼びつけるようになりました。 プロレスごっこや負けた者はゲンコツとかいうルールで怪我ばかりします。いやだと言っても許してくれません。 「次は村上だ。失敗したら全員のゲンコツだからな」 中田君が言い出した学校の塀の上を歩くゲームです。僕以外はみんな渡り終えて、僕の番になりました。2メートルくらいの高さですが、幅があるので僕でも大丈夫だと登って歩き始めました。でも途中で中田君が石を投げてきたんです。 「な、中田君・・やめてよ・・」 僕は怖くなって止まりましたが、中田君の仲間も一緒に石を投げてきます。避けようとして身体を動かしたら、そのまま下に落ちてしまいました。 足と手を骨折、とても痛かったんです。救急車で病院に運ばれ、僕は入院させられました。 学校では校長先生が全体朝礼で、中田君達が止めたのに僕が塀に登って落ちた、みんなも危ない事をしてはいけない、中田君が大急ぎで吉田先生に連絡したから早く処置が出来たけど、そうじゃなかったら大変な事になってたかもしれないと中田君を褒められたそうです。 僕は本当の事をお父さんとお母さんには話しました。お母さんは驚いて学校に行って吉田先生に相談したんですが、困った顔で戻ってきました。 「うちの環境に問題があるんじゃないかって言われたわ。私がパートに出て鍵っ子にしたのがいけないのかしら」 「うーーん、甘やかして育てたかな・・」 僕は病院のベッドで寝ているふりをしていました。お父さんは前の会社が倒産して、今の会社は給料が安く、休みが少ないんです。お母さんも仕事をするようになり、いつも二人とも疲れています。 これ以上困らせたくないので、それからは中田君の話はしないようにしました。 入院したのが7月で、退院したのが8月の12日です。夏休みなので学校にいかなくてすみます。 病院には通わないといけなかったんですが、ビデオを観たり、プレステで遊んだりしていました。 でも、9月になり、いやな学校に行かなくてはいけません。 吉田先生から、2学期はいい子になるのよと職員室で言われて、教室に行くと机に花瓶が置いてありました。見回すと、みんな僕を見ないふりしています。 僕は泣きたいのを我慢して、花瓶を教壇に持っていきました。 吉田先生が教室に入ってきましたが、後ろに知らない男の子がいました。 「今日からお友達が増えます。大阪から転校してきた加藤健太君です。仲良くしてやってね」 健太君は何も言わずに面倒そうに頭を下げました。坊主頭で、ちょっと怖い感じの子です。 事件は三日後の授業中に起りました。突然、健太君が立ち上がって、後ろの方の席にいた中田君に殴りかかったのです。頭を押さえて泣き出す中田君、吉田先生は健太君を引き離し、叱って廊下に連れ出しました。 健太君が中田君を殴った理由は、授業中に後ろの席から紙を渡されて、そこに「ナニワのハゲ」と書かれていたからだそうです。 中田君は自分が書いたのじゃないと吉田先生に言って、先生も証拠がないのにと健太君を怒ったそうですが、健太君はそっぽを向いていました。 「とにかく、暴力は絶対いけません。加藤君は中田君にあやまりなさい!」 最後は先生も怒って健太君に大声で言いましたが、健太君は中田君にあやまりませんでした。 次の日、中田君のお母さんに文句を言われた吉田先生が健太君のお父さんを学校に呼んだのですが、子供の喧嘩に親は出るな、学校はくだらない事でガタガタ騒ぐなと逆に叱られたそうです。 僕は、中田君たちが苛めを健太君に移してくれないかな、なんて考えていたんです。でも、中田君は健太君が強いので僕の苛めをまた始めたんです。 言葉でからかわれて、先生に判らないように机の中に変な物を入れられたり、歩いていると足をかけられたりしました。 「てめぇら、弱い者苛めをするな!」 掃除中に背中へ雑巾を入れられて気持ち悪さに飛び上がった僕をみんなは面白がって笑いましたが、健太君が怒鳴ったんです。 「転校生のくせに威張るな!」 中田君たちが健太君を囲みました。でも、健太君は恐れずに中田君を睨みつけています。 「やるか?」 中田君が健太君に言いました。この前の時と違って5人ですから自信たっぷりです。 「ああ」 健太君はあっさり答えると、中田君の顔を殴りつけました。 倒れた中田君の上に乗って、健太君がまた殴ります。中田君の仲間が健太君を蹴ったり、殴ったりしますが、健太君は中田君から離れようとしません。 僕は、身体が熱くなって中田君の仲間に飛びつきました。 また先生達が止めに入って喧嘩は終わりました。痛いと言って泣いているのは中田君たちで、僕と健太君は傷だらけになっても平気でした。 嬉しかったんです。何度も、こんなに苛められるなら死んだ方がいいと思いました。でも、僕は立ち向かったんです。健太君と一緒に戦ったんです。 校長室で、僕はどもらずに今までの事を話せました。中田君はただふざけていただけなのに健太君が暴力を振るったと言いました。健太君はずっと黙ったままです。 吉田先生は僕が嘘つきで、健太君は不良だと怒り、校長先生からは、どういう理由があっても暴力はよくないから仲良くしなさいと注意されました。 校長室を出て、廊下で健太君は僕に手を差し出しました。 「すまないな、弱い者苛めって言って。高志は弱虫じゃないよ」 僕は健太君の手を握りました。二人で話したのはその時が初めてだったんです。 「健太君、ありがとう。本当に・・ありがとう」 僕は、こらえていた涙を止められませんでした。もう一人じゃない、健太君が友達になってくれたら何も怖くない。 教室に戻ると、中田君たちを除いてみんなが残っていました。中田君たちは吉田先生と職員室で話をしているのでしょう。 「今、みんなで話し合ったんだけど、加藤君と村上君の方が正しいってわかったんだ」 代表委員の久松君が、入ってきた僕たちを見て言いました。 「先生は苛めはよくないって言うけど、中田君たちが村上君にしてたのが苛めなんだと思う。それなのに、僕たちは見て見ないふりをしていた。ごめん」 みんなが僕に、久松君に続いて一斉にごめんと言って頭をさげてくれました。 僕は男なのに泣き虫です。また泣いてしまいました。広田さんが近寄ってハンカチを貸してくれました。とても、いい匂いのするハンカチです。 「みんな、仲良くしよう。その方が楽しいもの」 広田さんの言葉は先生の仲良くとは違って胸にしみこみました。健太君だけじゃなく、クラスのみんなも友達になってくれるんです。 「よ〜し、団結、3年3組、ファーーイト!」 健太君が大声を上げ、僕達はつられてファイトの言葉を手拍子で連呼しました。運動会でよくやる掛け声ですが、大阪の小学校も同じなんですね。 中田君達はおとなしくなり、僕は学校が大好きになりました。 健太君、もし僕の周りで誰かが苛められたら、今度は僕が健太君になるよ。僕は弱いけど、頑張って戦ってみせる。力より気持ちが大事なんだよね。 僕のどもり癖は完全に治りました。 |