「健太くんの第2班探偵団」


 僕は4年生になりました。クラス替えはありませんので4年3組です。
 吉田和子先生は僕と健太君を嫌っていますが平気です。僕には仲良しの友だちがいますから。


 4年生は高学年ですから、いろいろと学校の行事で役割を持つことになります。低学年の世話とか、運動会の手伝いとか、飼育係の当番とかです。


 それで5人の班を作るのですが、僕と健太君は親友ですから最初から一緒と決めていました。佐々木君はアニメで健太君と、ゲームで僕と話が合いますから問題はありません。あとは山口君と栗林君を誘うつもりでしたが、広田さんが小野さんと連れて僕たち第2班に入ってきました。


 3組は35人で男子が18人、女子が17人です。ほかの班は男子、女子でまとまりましたから男子と女子が一緒なのは僕たちだけですが、第2班はクラスで一番の仲良し班になりました。

 
 班でみんなと一緒にいるのは楽しいです。でも、広田さんと二人だとまたどもりが出たりします。それに、健太君と広田さんが仲良く話しているのを見ると胸が苦しくなるんです。


 健太君と広田さんは背が高い方で、6年生と変わりません。僕は小野さんと一緒ぐらいで低学年と間違えられます。


 広田さんはきっと僕が健太君の親友だから仲良くしてくれてるのだと思いますが、広田さんのことを考えると顔が熱くなるんです。早く広田さんと同じくらいに身長が伸びないかなっていつも思います。


 10月になって、運動会がありました。健太君は運動が得意なんですが、走るのは速くありません。
 僕は200メートルで1着になり、リレーでも3人を抜きましたので、クラスのみんな喜んでくれました。広田さんも・・

 
 それから2週間が経って、学校で大変な事件が起こりました。中庭の動物小屋にいたウサギが首を締められたり、地面に叩きつけられて殺されていたんです。


 「みんなに命の大切さを教えるために動物を飼っていましたが、心ない人のせいで可哀想な事になりました」
 吉田先生はいつもより化粧が濃く、何となく楽しそうでした。テレビ局の人に話しているところがニュースで流れるそうです。


 「その人はもう警察に捕まっています。学校の付近を変な人がうろついているから気をつけなさいと言いましたね。家も仕事もなくて、人に迷惑をかける悪い人です。みなさんも、勉強しなくて先生の言う事をきかないと、大人になったらあんな酷い人になるんですよ。わかりましたね」
 最後の方で先生は健太君の方を見ながら話していました。

 
 先生の言う悪い人は、いつも破れた汚い服装をしていて、大橋の下のダンボールに住んでいます。運動会の時も裏門から運動場を覗いていました。

 
 「許せない、絶対にぶん殴ってやる」
 放課後になっても健太君は机を叩いて怒ってました。
 僕もアパートで動物が飼えませんから、世話係の当番は楽しみでしたし、小屋の掃除は広田さんと二人きりでやってたんです。


 「でも警察に捕まったんだから、刑務所に入るんでしょう?」
 小野さんもウサギが可哀想だと泣いていましたが、気味の悪い男の人がもう現われなくなると聞いて安心していました。女の子って、男の子より危ない事があるそうです。


 「ホワイトやアリアス、ヤブ達がみんな死んじゃったんだぞ!死刑じゃなきゃ駄目だ」
 健太君はウサギに阪神の選手の名前をつけて可愛がっていました。
 「死刑にはならないと思う。ウサギは法律だと物なんだって。ガラスを割ったのと同じなんだ」
 佐々木君が言うと、健太君はまた机をこぶしで叩きました。
 「刑務所から出てきたら、絶対に殴ってやる!」
 机が壊れたら健太君も刑務所に入れられるんじゃないかと心配でした。 


 悲しいけど死んだウサギは生き返りません。僕は、これでこの騒ぎは終わると思っていました。でも、そうじゃない事を月曜日の朝礼で吉田先生が教えてくれました。
 「みなさん、動物を殺した悪い男の人ですが、警察から戻ってきています。残念ですが、見ていた人がいなくて釈放されました。何をするか判らない危ない人ですから十分注意してください」
 やっと普通に戻った健太君が、また怒った顔になりました。


 「ねぇ、行っちゃ駄目よ。危ないわ」
 放課後、大橋に行こうとする健太君を広田さんが止めます。佐々木君と小野さんも反対です。広田さんは助けを求めるように僕の方を見ました。
 「僕も健太君と一緒に行くよ」
 「村上君・・」
 広田さんの気に入るようにしたかったけど、健太君と僕は親友です。もし健太君が危ない目にあうのなら、僕が助けないといけません。

 
 「よし、高志。それでこそ親友だ」
 健太君はにっこり笑って僕の肩に手を置き、そのまま肩を組んで僕たちは大橋の方に歩きました。
 「待って、私も行く!」
 暫くすると広田さんが諦めた顔で追いついてきて、佐々木君と小野さんもやって来ました。第2班が揃ったんです。


 大橋の下のダンボールの家は壊されていて、男がリヤカーに荷物を積んでいました。
 「おっちゃんだろう?ウサギ殺したのは」
 訝しげに見る男に健太君が詰め寄りました。
 「そうだと言ったらどうする?」
 「おっちゃんを殴って、学校に連れて行って、ウサギの墓に土下座させる」
 男は哀しそうだけど優しい目をしていました。よく見ると怖そうな感じではありません。
 「俺じゃないよ」
 「違うって証拠はあるんか?」
 健太君も自信をなくしたんでしょう、声が小さくなってます。
 「もし俺なら、持って帰って食べてるよ」
 男の人は痩せています。健太はちょっと考えて、納得したように頷いてから頭を下げました。
 「ごめん・・俺、間違えました。叩いてもいいです」
 「もういいよ、どうせ他の所に移るから」
 「おっちゃんが犯人じゃないのに何で移るんだ?」
 「中学生や高校生に石を投げつけられるんだ。警察も殺されるまで相手にしてくれない」
 僕はドキッっとしました。3年の時の、中田君たちの苛めを思い出したんです。


 「どうして学校の近くに来るの?」
 広田さんも男の人が怖くなくなったようで、正面から顔を見て話し掛けました。
 「俺にも小学生の子供がいてな・・事情があって家に帰れないけど、元気な子供達を見てると楽しいんだ。恭平も友達と一緒に仲良く勉強してるだろうって思って・・」
 恭平というのが男の人の子供なんでしょう。
 「一生懸命働いて、お金を貯めて帰ればいいじゃない」
 小野さんには働かない男の人というのが不思議だったようです。
 「働きたくても仕事がないんだよ。俺だってね、大学を出て一流会社に勤めてたんだ。リストラされて、家のローンも払えなくなって、結局はこの様だ。野垂れ死にする時を遅らせてるだけさ」
 「おっちゃん・・本当に疑ってごめん」
 健太君がもう一度頭を下げ、僕たちも一緒にあやまりました。
 「いいよ・・子供に愚痴って、情けないな・・お願いだから、石を投げる連中のようにはならないでくれよ」
 男の人は寂しそうに笑ってからリヤカーを引きながら土手の方に離れて行きました。


 「俺、絶対、犯人を見つける」
 帰り道で、健太君が宣言しました。
 「ホワイト達の為だけじゃなく、おっちゃんが疑われたままじゃ可哀想だ。無実の罪を晴らしてやらないと」
 「どうやって?」
 僕も賛成でした。もしお父さんが新しい仕事を見つけていなかったら僕がその恭平君だったかもしれません。お父さんが仕事を探していた頃を思い出してしまいました。


 「先週のコナンでやってたじゃん。聞き込みをしよう。学校の近くで見た人がいないか聞いて回るんだ」
 「じゃ、僕たちは少年探偵団?」
 アニメとゲームが大好きな佐々木君が目を輝かせます。
 「うん、だから・・作戦を考えて、すいり・・推理しようぜ」
 広田さんと小野さんも賛成し、僕たちは第2班探偵団を作りました。

 
 翌日から僕たちは推理と聞き込みを始めました。佐々木君が団長です。佐々木君は成績が良くて、考えたり推理するのが好きなんです。
 「村上君と広田さんが正門の近く、加藤君と小野さんが裏門の近くを聞いて回るんだ。僕は動物小屋に何か落ちていないか探す。どんな小さな事も見逃したら駄目だよ」


 正門の近くには文具屋さんと食堂、大通りの角にはローソンがあります。文具屋さんと食堂では別に何もなかったと言われましたが、ローソンで収穫がありました。お巡りさんにも聞かれたそうですが、夜の1時ごろ、学校の方から音がしたそうです。


 「うさぎは声を出さないから、違うかもしれない」
 ローソンのお兄さんは気になって学校の方を注意して見ていたけど、誰も見えなかったそうです。
  裏門の方は住宅街で、学校の生徒の家もたくさんあります。健太君は同級生や知っている人の家を聞いて回りましたが、夜遅くだと通る人はほとんどいないとの事でした。


 「時間は夜の1時頃、犯人は裏門の塀を乗り越えたんだ」
 佐々木君はそう推理しました。
 「でも、それじゃ誰かわからないよ」
 9時に寝る僕には夜の1時なんて、とても起きていられません。
 「塀に指紋とか足跡が残っているんじゃないかしら?」
 小野さんはお母さんとテレビの推理ドラマをよく見るそうで、証拠は指紋が一番だそうです。
  「でも、どうやって調べるの?」
 広田さんの質問で、僕たちの推理は止まってしまいました。


 新しい情報は、吉田先生が教えてくれました。
 「みなさん、ウサギを殺した怖い男ですが、犯人だとはっきりしました。見ていた人がいるんです。どこかに隠れているようですが、いつ現われるかわかりません。もし見かけたら警察か先生に教えて下さい」
 佐々木君が急いで手を上げました。
 「その、見ていた人って誰ですか?」
 「この小学校の卒業生で、諏訪見中学校の生徒会長をしている里中博之君です。ラサル高校の受験勉強で起きていて、夜の1時過ぎに窓から小学校の塀を乗越える男を見たそうよ」
 あの男の人は絶対に犯人じゃない。それを見たというのなら、その生徒会長があやしい。僕たちは顔を見合わせて頷きあった。

 
 「こんな時にコナンだったらどうするか・・」
 放課後の作戦会議で、佐々木君は腕を組んで考え込みました。
 「おっさんが無実なんだから、その生徒会長が犯人だろう?」
 考えるのが苦手な健太君は、早く里中という人の所に乗り込みたがっています。
 「そうだと思うけど、嘘だっていう証拠がないと駄目なんだ」
 あのおじさんが警察に見つかったら、今度こそ刑務所に入れられるかもしれません。

 
 「動物小屋にその、証拠はなかったの?」
 広田さんが真剣な顔で佐々木君に聞きました。
 「うん、きれいに片づけられて何もなかった」
 いろいろと提案は出ましたが、佐々木君はみんな駄目だと言います。

 
 「やっぱり、その生徒会長に白状させるしかないじゃないか!俺、行くよ」
 ついに健太君がきれて立ち上がりました。僕と広田さんも頷いたのですが、佐々木君が首を横に振ります。
 「証拠がないなら作ればいいんだ。コナンならそうする」
 「どうやって?」
 自信ありげな佐々木君を見て、健太君は座りなおしました。
 「これは、おとり作戦と言うんだけど・・」
 作戦を聞いて、僕たちは賛成しました。

 
 おまえのこどもがはんにんだ
 あのひ1じにおれはみた
 けいさつにいわないから1まんえん
 15にち1じおおはしのした
 しょうこはある
             なぞのおとこ


 手紙は佐々木君がパソコンで作ったんですが、みんな文句を言いました。
 漢字がないから1年生みたいだ、私たちも仲間なのにおとこだけはおかしい、親に出すのは告げ口みたいでいやだ、テレビでは新聞から切り抜いて作っている、1万円は多すぎる・・ 


 でも佐々木君は自分が団長なんだからと決めてしまい、僕と健太君で近所の人に教えてもらった里中という表札のある家の郵便受けに入れました。


 日曜日、僕たちは近くの草むらに隠れて橋の下を見ていました。お巡りさんとか、石を投げる中学生が出てくるかもしれません。
 1時になって、眼鏡をかけた女の人と中学生が現われました。


 「誰もいないみたいよ、博之さん」
 女の人が周りを見回して、中学生と話しています。
 「ママ、どうしょうか?」
 「大丈夫よ、警察も私達を信用するわ。証拠なんて嘘よ」
  健太君の合図で僕たちは草むらから二人の前に飛び出しました。


 「何よ、あなたたち!」
 小学生5人に囲まれて、女の人と中学生は驚いたようです。
 「ウサギ達の墓にあやまれ」
 健太君が中学生に詰め寄ります。
 「何を言ってる、俺は知らない」
 相手が小学生とわかって中学生は安心したようです。
 馬鹿にしたような顔で僕たちを睨みました。
 「ママは津福小学校のPTA会長をしてたんだ。こんな悪い事をしたって校長先生に言いつけるぞ!」
 「俺、あの夜は家出して中庭で寝てたんだ。はっきりと顔を見たよ」
 健太君が怯まずに言ったのですが、中学生の余裕は変わりません。
 「嘘だ、フードで顔を隠していた」
 言ってから中学生は慌てて口を押さえました。佐々木君の作戦的中です。


 「わかったわ、1万円、あげる。それでいいんでしょう?」
 女の人が諦めたように横から口を入れます。
 「おばさん、まったくわかってないよ」
 健太君は呆れたように溜息をつきました。


 「わかってないのはお前達だ。成績が落ちたのはお前達のせいだ!」
  突然、中学生が大声で怒鳴り始めたんです。
 「今度の模擬試験は大事だったんだ。それなのに運動会がうるさくて勉強が出来なかった。試験の結果が出たが、全国で100人以上に抜かれたんだぞ!」
 興奮している中学生に、女の人は困ったような顔をしてあやまりました。
 「ごめんね、私がちゃんと学校に抗議していればよかったの。博之さんは悪くないのよ、それどころか被害者だわ」
 健太君だけじゃなく、僕たちも呆れてしまいました。

 
 「健太君、どうする?」
 僕たちはウサギの墓であやまらせる事を諦めていました。ウサギもこんな人たちが反省するとは思わないでしょう。
 「警察に言って話すよ。あのおっちゃんの無実を証明しないといけないからな」
 「ふん、警察がおまえ達の言う事なんか信用するものか」
 中学生は鼻で笑いましたが、佐々木君がポケットから出したレコーダーを見て顔色を変えました。

 
 「学校に判ったら困る。受験に影響するんだ。あやまるよ、悪かった!」
 「10万あげる、10万よ。それ以上でもいいわ!」
  「走れ!」
 もう二人の話しなど聞く気はありません。健太君の合図で僕たちは土手にかけのぼり走りました。バトンのようにしてレコーダーは僕が受け取っています。


 途中でそれぞれバラバラの方角に分かれて走り、最後に笹山城で落ち合う約束です。これだと、追って来られても絶対に捕まらないと佐々木君が言ってました。
 僕が最初に笹山城に着き、暫くすると広田さんがやってきました。


  僕は石の上に腰かけていましたが、広田さんは地面に座りました。
 「汗が出てるわ。これで拭いて」
 広田さんのハンカチを受け取って顔に当てると、懐かしい、いい香りがします。
 一緒に座ると身長で見おろされるのですが、この姿勢だと僕の方が上になります。広田さんのジーンズが汚れるんじゃないかと思いましたが、この方がいいので口に出しませんでした。


 「よかったわね。うまくいって」
 「うん、あのおじさんも警察につかまる心配がなくなって安心すると思う」
 走った後だから、ちょっと息が苦しいです。広田さんが来る前には治まっていた筈なんですが・・

 
 「私たち、協力して一緒にやりとげたのよね、これからもずっと友だちでいたいわ」
 「うん、でも・・」
 僕は、二人だけの今、とても気になっていた事を聞こうと思いました。
 「何?」
 不審そうに広田さんが僕の方を見上げます。


 「あのさ・・僕と健太君と・・どっちが好き?」
 言ってから、胸が痛くなりました。
 「どっちって・・二人とも好きよ」
 広田さんは顔を赤くして俯きました。
 「そう・・」
 ちょっと寂しい感じ。でも、それでいいんです。健太君の方が好きだって言われたら、もっと寂しい気持ちになっていたと思うから・・


 「でもね・・どっちかと言うと・・」
 「えっ?」
 「走るのが早い人のほうが好きかなぁ・・」
 広田さんは恥ずかしそうに言ってから、また僕の顔を見ました。僕も顔が真っ赤になっていたお思います。
 「村上君はどうなの?」
 「僕は・・広田さんが好きだよ・・一番」
 広田さんの手が僕の方に伸びてきたので、そっと握りました。少し小さくて、柔らかくて、あったかいんです。汗ばんできましたが、僕も広田さんも離そうとしないのでそのままです。
 僕は、胸が苦しくなりましたけど、嫌な感じではありません。いえ、ずっと苦しいままでいいと思いました。


 「5年になっても同じクラスだといいね」
 黙っていると息が苦しいので、僕は広田さんに言いました。
 「別のクラスになっても・・」
 健太君の声が聞こえて、僕たちは慌てて手を離しました。広田さんの次の言葉は聞けませんでしたが、きっと、一緒に仲良くという事でしょう。
 手を振りながら健太君が笑顔で近づいてきます。
 親友の健太君、大好きな広田さん、そして素敵な仲間。第2班探偵団は、これからもずっと続くんです。