| ネパールのカトマンズ、瞳は念願のエベレストを仰ぎ見ながら、言葉、風習、服装の全く異質な地に酔っていた。 「お待ちなされ、そこのお方」 思いがけぬ日本語に呼び止められて振り返ると、中国小説の挿絵で見た仙人のような髭の白い老人が彼女を見つめていた。 「貴方は日本人?」 「国も年月も我には意味を持たぬ。汝こそ伝説の首輪の主なり」 「首輪ですって?」 老人は懐から年代物と思われるネックレスを取り出した。 「稀代の美女のみが身につける事の出来る首輪じゃ。最近ではマリー・アントワネットが持って、王妃の首飾りと呼ばれておったな」 「それが?」 「うむ、クレオパトラ、楊貴妃、ジャンヌ・ダルク、そちの国では卑弥呼だったかのぅ。ともかく首輪は汝を選んだ。差し上げよう。この首輪には男を魅了する力がある」 「待って、間違いでしょう・・私ってそんなに美人じゃないし・・」 「磨かねば宝玉も輝かぬ。また普遍の美は時代より首輪が知る。この首輪を身につける事で汝は真の美女となるのだ」 「でも・・卑弥呼はよく知らないけど・・言われた女性って不幸な死に方をしてない?」 「美人薄命、副作用はあるかも知れぬ。今までの持ち主の怨念もこもっておるし・・」 「そんなぁー」 「仕方がない、それでは峨眉山にて我が供物の儀式を執り行おう。厄を払えば長寿も約束できる」 「それなら・・」 「ただ、経費は負担して貰うぞ。100金・・汝の国の貨幣で言えば10万とかだな。儀式が終わる半年後までこの首輪を身につけてはならぬ。また誰にも口外するでないぞ」 瞳は10万を渡して首飾りを受け取った。老人は頷いて離れて行った。 瞳と同じツアーの一郎は角を曲がろうとして老人とぶつかりそうになった。 「おっ・・これは・・お主・・」 「えっ、爺さん、日本語?」 「ふむ、その人品骨柄、英雄の素質を有しておる。腕輪の主に相応しい。この腕輪はアレキサンダー、シーザー、ナポレオン、お主の国では織田信長が・・」 |