まどろみから醒めると、突き抜けるように青い空があった。身体が宙に浮いている。
 心地よい風と潮の香り、波の音、起き上がろうとしてバランスを崩し落ちそうになった。僕は椰子の木を結んだハンモックの中にいたのだ。


 注意しながら身体を横にする。地面から1メートルくらいの高さで下は砂浜だから危険はないが、この浮遊感を手放したくなかった。


 
空が海とつながり、海鳥がゆっくりと飛んでいる。海はきらめく青から透き通ったコバルトグリーンに輝きを変えて白い砂浜に辿り着く。波と戯れている子供と見守る母親。
 妻の夏美と小学3年の息子、高志だ。僕は身体の向きを変えて後ろにそびえる高級リゾートホテル「センパチホテル」を眺めた。


 15年前と何も変わらない。友人に誘われてバリ島の安いツァーに参加し、このホテルの一室に泊まった。景色の美しさに魅せられて、もう一度来たいと思っていたが、その夢が叶ったのだ。


 
夏美と高志の楽しそうな笑い声。
 夏美、お前と出会えて結婚出来た事がどれほどの幸せだったことか。
 高志、お前にもこのバリは一生忘れられない思い出になるだろう。しかし、満たされた夢に身体が溶けていくような、不思議な至福感の中でまたまどろみに溺れてしまいそうだ。
 夢なら醒めないで欲しい・・

 「処刑完了ですね。死亡を確認しました。」
 「こいつは何をやったんだ?」
 
「妻子殺しです。リストラで失業して家庭が崩壊したんですね」
 
「鬼だな。まるで死に顔が笑ってるようじゃないか。よっぽど逆恨みしてたんだろう」
 「死刑になる奴はみんな人間の屑ですよ。さっさと片づけて帰りましょう」