| 「天界を我が手に」 (序) ここはモンゴル高原。 首都ウランバートルを遠く離れ、道もない草原に服部誠は立っていた。 日本では絶対に見られぬ満天の星。 見回せば地平線すべてが草の海だ。 悠久の時を経ても変わらぬ大自然の広大さに比べ、人間とは何と小さき存在だろう・・ 「こら、みっともなく現実逃避するんじゃない!」 目の前で影が揺らぎ、男の姿になった。 「いいんだ・・どうせ俺なんか・・凛お嬢様には相手にされず、愛お嬢様の後始末も出来ない能無しなんだ・・」 世界最強の男、服部誠は完全に拗ねていた。 (1) 服部家は徳川時代から仕えてきた有馬家に逆らう事が出来ない。 親友の花子が魔界に嫁入りしてから、愛は父親であり当主の有馬仙大に泣きつき、誠の意志を完全に無視して正式に婚約した。 夢が叶った愛は有頂天になり、悪意なき破壊才能をいっそう開花させる。 誠と愛が通う瞑繕高校の理事長は、愛の姉の凛である。校舎が全壊し、再建中に体育館が爆発し、やっと校舎が出来上がると、次の日には瓦礫となっている。この繰り返しはさすがの有馬財閥も音を上げた。 どうせ結婚するなら早いほうがいい、高校は退学して誠さんと式を挙げなさい。凛のこの提案に愛の異存があろう筈がない。巻き添えでもうすぐ卒業の誠まで退学させられた。 相変わらず誠の意志は無視され、旧久留米藩の居城、篠山城の有馬神社で挙式は行われた。そして、喜びの余り、愛が転んだ瞬間、城の石垣は完全に崩れ落ちた。 「ビンラディンを凌ぐテロリスト」「大災禍を呼ぶ少女」として各国とも新婚旅行の入国を拒絶し、何とか4千年の歴史を誇る太っ腹の中国だけがビザを発行してくれたが・・ 「困っちゃうな〜、またまた転んだわ〜♪」 躓いて愛が手をついたのは万里の長城の城壁だった。歴史の奇跡は史上最大のドミノ倒しを起して崩壊した・・ 「それで、ゴビ砂漠を越えてここまで逃げてきたんだ。もうどの国も俺たちを受け入れてくれない。愛お嬢様と俺を魔界に亡命させてくれ!」 誠は魔王に頭を下げたが、答えは冷ややかだった。 「あの出鱈目な魔法陣の召還で、お前達だとは判っていたが・・有馬家300年の怨念の巻き添えを魔界が食う義理はない」 「何だ?それ」 新魔王の意外な話に誠は戸惑った。 「次回のネタ予定だったが仕方ない、あらすじを話そう。有馬家の化け猫騒動は知っているな?」 「ああ、鍋島藩のと似たような話だが・・」 猫が姫に化けて燭台の油を舐める話だ。何故怖いのか、今でも誠には判らない。 「300年前、有馬の凛姫はお庭番の服部誠ノ進に懸想していた。しかし、身分が違うし姫は病弱で寝たきり。その想いを知るのは愛猫のあいだけだったが・・」 「何だか、名前の設定だけでネタバレしているような・・」 作者が咳き込んだ。 「猫のあいは姫の想いを遂げさせようと、死ぬ間際の姫に乗り移った。そのショックで姫はなくなった・・」 「それで?」 「その怨念が現代に蘇ったわけだな。詳細は次回の『城を我が手に・猫夜叉編』で(嘘)」 高橋留美子様、ごめんなさい。尊敬してます・・ 「じゃ、俺の相手は凛お嬢様だろう!」 もしそうなら異存はない。なんで姫のかわりがねこなんだ! 「作者の手違いだ。ともあれ、300年の恋が叶い、愛が凄まじくバージョンアップしたのには、そういう深い因縁がある」 「まったく、適当なんだから・・」 誠は数百回目の溜息をついた。 「被害者はお前だけじゃない!」 まだ拗ねている誠に、新魔王は声を荒げた。 「そもそも花子のおかげで魔界は有史以来の大パニックに陥っているんだぞ。このうえ猫の面倒まで見れるか!」 「何かあったのか?」 「魔界が天界と繋がってしまったんだよ・・」 魔王の表情も暗く沈んでいた。 魔界の社会は実力が物を言う。血筋とは遺伝による魔力を証明するものであり、たとえ貴族であっても実力がなければ小悪魔に落とされた。 花子はすぐに実力を発揮した。魔王子の父である前魔王は完膚なきまでに叩き伏せられ、隠遁生活をおくっている。もっとも、花子は義父とスキンシップで遊んだだけだと思っているが・・ 本来なら最強の花子を魔女王にしなければならない。しかし、いくらなんでも人間を魔女王にするわけにいかず、魔宮は魔王子を魔王とし、花子を魔王妃とする決定を下した。こうなると魔王子の選択の余地はなく、泣く泣く花子と結婚したわけだ。魔界史上、初めての魔王妃の尻に敷かれた魔王となる。 「魔界と天界の間には龍界がある。黒雲に満ち、ドラゴンが常に徘徊している。だから我々悪魔は翼があっても天界に行けず、天使どもも魔界に降りてこれない。何とか花子から逃げたかった俺は、魔王妃の義務として、龍界でドラゴンを倒さなければならないと言ったわけだ」 「結果は想像つくな・・」 誠の言葉に新魔王は深い溜息をつく。 「そう言うけどな・・ドラゴンを一匹倒せば魔界史に英雄として残るんだぞ・・」 「花子の事だ、全部やっつけたんだろう?」 断定する誠に魔王は力なく頷いた。 「それだけじゃなく、龍王を家来にしてしまった・・龍界は花子に全面降伏して黒雲を撤去させた。魔界で青空が見えるんだぞ!明るい魔界なんて魔界じゃない!」 「それで、花子はどうしてる?」 「龍王の背中に乗って飛び回ってるよ。まぁ、おかげで天界の侵略はまだないが・・」 「龍王は天界まで昇れるのか?」 意外な質問に新魔王は首を傾げる。 「昇れると思うが・・」 「どうだ、花子と愛お嬢様を龍王で天界に行かせたら」 たっぷりと3分間、魔王子はこの提案を検討した。 「お前の大事な愛お嬢様がどうなってもいいのか?」 「どうかなると思うか?」 新魔王と誠は顔を見合わせて共犯の笑みを浮かべる。 「ふむ・・天界に同情するなぁ・・」 これも結果は想像出来るが、よその迷惑を気にする余裕はない。 「その間、俺たちはゆっくり休めるわけだ」 「その話、乗った。亡命を認めよう」 二人は同志としての固い握手を交わした。 (2) 愛花コンビ到着まであと100時間。 天界ではラファエル、ミカエル、ガブリエル、ウリエルの大天使が緊急会議を開いていた。 かのツアラトゥスラが見抜いた通り、神が千年前に死んでから、この4人が天界の実権を握っている。神の死については、次々作「十字軍旗を我が手に」で明かす予定(大嘘) 「そもそも人間が招かれてもいないのに天界に来ようとは、不法侵犯としか言いようがない。天使軍団の総力をあげて阻止すべきだ!」 タカ派代表のウリエルが激しくテーブルを叩いた。 「花子とやらは人間だが、魔王妃になったと聞く。これは魔界の陰謀ではないか?」 ミカエルが人間界に詳しいガブリエルに質問をした。 「え〜とですね〜花子ちゃんはですね〜魔王と闘ってぇ〜、魔界円月殺法に勝ってますぅ。愛ちゃんは中国の万里の長城を〜、え〜と、全損させました〜。魔界の事は〜わっかり〜ませ〜ん」 「どうやら、ただの女の子じゃないようですね」 知性派のラファエルはにっこりと微笑んでブラックコーヒーを口に運んだ。 愛花コンビ到着まであと50時間。 4大天使による天閣の有事法案提出により天議会が召集された。 「天使軍は魔界の侵略に備えた軍である。人間相手に出撃するのは天法違反ではないか?」 「しかし、天界侵犯を見逃すわけにはいかないだろう。脅しでヒキタ天光の使用くらいは認めてもいいのではないか?」 「いや、花子とやらは魔王の魔光を跳ね返したと書いてある。天光が通用するか疑問だ」 「この法案は特別立法なのか?なし崩しに天使軍を防衛から攻撃に使う意図はないのか?」 議論は30時間続き、結論が出ずに天使会に回された。 愛花コンビ到着まであと20時間。 有事法案を認めるかの投票が天使会で実施され、かろうじて可決された。 「賛成15%、反対14%、わからない70%、無効票1%」 天使軍の出動が承認され、あとは天閣に一任される。 愛花コンビ到着まであと1時間。 「愛花、第一次封鎖網を突破!第二次迎合網の発動を要請します!」 「第二次迎合網、敗退!すでに愛花は第三次攻撃圏に突入!」 「第・・ともあれ、我が天使軍はまったく歯が立ちません!」 作戦本部のモニターで愛花のスピードはまったく衰えない。まっすぐと天界の首都エデンを目指していた。 「我々4大天使を除いて全天使をエデンから避難させなさい」 ミカエルの命令に天使軍司令官スガタンは顔色を変えた。 「我々も最後まで戦います」 「4大天使の力を合わせればレベル100万を超える。軍を巻き添えにしたくないのよ」 「判りました・・」 全女天使の憧れの的、二枚目のスガタン司令官は敬礼をして出て行った。余談だが、魔女ビレトと天軍司令官スガタンの悲恋が最初の構想だった・・何でこうなる? 「招かざる客ですが、若い少女が二人も訪れてくるのです。お茶とお菓子ぐらいは用意してもいいのではないですか?ミカエル」 ラファエルは相変わらず笑顔を絶やさない。 「わたしぃ、パイがいいけどぉ、ふとりたくないし〜」 「ガブリエル、終わったら龍王の丸焼きが食べさせてやるぜ」 ウリエルは天界の敵に対する怒りをたぎらせ、ガッツポーズをとった。 愛花コンビ到着まであと1分。 天界は土の地面の代わりに雲が果てしなく広がっている。 エデンの天宮前に4大天使が並び、その時を遅しと待っていた。 「雲下に到達したようですね」 ラファエルがゆったりした口調で言った。 「雲中に潜りました。この速度でくると・・」 「さ〜ん、に〜いぃ、い〜〜ち〜、ぜろ〜う!」 ガブリエルの読み上げに合せて雲が割れ、龍王に乗った愛花コンビが天界の天に踊り出た。 「空に〜星が〜あ〜る〜かぎり♪」 「愛ちゃん、ここ、もう空なんだけど〜」 「夜空を〜あおいで〜♪」 「だから、昼だってば・・天界にも夜あるのかな〜」 4大天使は龍王に乗って空で漫才をする二人に呆然としていた。 「汝ら、何をしに天界に来たのだ」 雲に降りてきた花子にミカエルが呆れて聞いた。 「何しにきたと聞かれたら」 「答えてるのが世の情け」 「魔界の平和をすくうため」 「まこちゃんとの愛をまもるため」 天使達はきょとんとしている。アメリカでも有名なポケモンも天界では放映されていない。 「ラブリーチャーミーな幼な妻」 「愛ちゃん」 「花ちゃん」 「魔界の使者の二人には・・あれ、ニャオス、誰かやって」 一呼吸が空き、やっと天使も我に返った。 「いつまでやってる!」 ウリエルが遂に癇癪を起こして怒鳴る。 「あのさ〜、ハネムーンの下見に行ってみたらってダーリンに言われたの〜」 「新婚旅行の下見・・」 意味が判らず、天使はきょとんとしている。 「魔宮殿も有馬家の新婚旅行まではナニしちゃ駄目なんだって。降りていい?」 竜王はもう雲に着地している。背中から二人が滑リ降りる態勢をとっていた。 「待て、お前達の評判は聞いている。降りるな」 慌ててミカエルが止めた。 「噂を信じちゃいけないよ〜♪」 「あ、愛ちゃん、また何か壊したんでしょう!」 恍けようとする愛に花子が呆れたように言う。どっちもどっちと思うが・・ 「飛んで飛んで飛んで飛んで〜回って回って回って降りる〜♪」 誤魔化そうとして愛が竜王から降りた。 ワンパターンながら・・雲に躓き・・天が割れた。 終章 「地底に地獄があるんじゃないか?」 「お前なぁ・・天から落ちてきた堕天使で魔界の住民は倍になったんだぞ!地底の鬼どもが避難してきたらどうなると思う」 魔王は頭を抱えて悲痛な声を絞り出している。よその迷惑顧みず、が自分に跳ね返っていたのだ。 「パラレルワールドとか・・」 「二人が自分達と一緒に戻ってきてみろ、全世界の破滅だ」 ここは元魔宮の傍に建てられた小さな小屋。魔宮がどうして瓦礫になったかは、想像の通り。 「宇宙の果ての星・・」 「それは花子のマザーの領分だろう」 「異世界」 諦めたように、魔王は誠と数を競っている溜息をついた。 「そうだな・・探してみるか・・」 また墓穴を掘るだろうと判っていながら、二人は一時の安逸を求めて計画に没頭していった。 では次次々回の「異世界を我が手に」に乞う、ご期待!!(これは・・書くかも・・) |