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○ 尾仁村公民館の柔道場
柔道着の慎一と浩志が組み合っている。浩志が頭半分高い。前に出ようとする浩志に、慎一はあっさりと背負い投げで決める。
慎一「力で押すだけじゃ駄目だ」
浩志「もう一本!」
慎一「よし、こい」
負けず嫌いの浩志、慎一と再び組み合う。
○公民館の玄関
老女が車椅子に乗っている。それを見守る黒スーツの高志と村民達。
老女「これは、軽くていいわ〜」
高志「レバーでギアを切り替えられます。ブレーキはこれです」
高志、車椅子の傍に座って説明する。
老女「でも〜高いんでしょう〜」
高志「四葉グループからの進呈です」
○尾仁村を少し離れた高台
2台の車。1台の運転席に根津、後部座席にスーツ姿の男二人。
根津「知事と佐多建設の密会は録音したか?」
中年「はい、写真も撮りました。ただ・・明正建設の服部営業部長が同席していまして・・」
青年、後ろの席から助手席に大きな紙袋を置く。
根津「やはりか」
青年「ご存知だったのですか?」
根津「身内の膿を出すのも仕事だ。次の指示を待て」
二人、車を出てもう一台に乗り、道の方へ消える。紙包みの中身を調べる根津。
○ 村長宅
縁側で村長と司葉が将棋をしている。
村長「新居を建てると言ったんやけどな〜、部屋はあるんやからここに住みたいと祐太がゆうて〜」
司葉「祐太がゆうたか」
のんびりお茶を飲む村長。司葉は盤から目を離さない。駒を動かす。
村長「前から〜好き合ってるのはわかっとったしの〜」
村長、駒を動かす。にやりと笑って司葉は王の前に金を打つ。
司葉「王手」
村長「まぁ、わしも〜まだ隠居しないし〜祐太を〜鍛えていくわ〜」
村長、角で金をとる。
司葉「待て・・角が何でここに来る?」
村長「次はわしの王手〜」
村長、取った金を司馬の王の横に打つ。
司葉「銀で止めてた筈だ!」
村長「さっき〜この金取るのに動かしたやんか〜」
司葉、思い当たって赤くなる。
司葉「・・あの・・一度だけ待ったを・・」
村長「あかん、あかん。集中せんか〜」
○観音屋敷、幸子の部屋
幸子と祐太が手を握り合って座っている。
幸子「婚礼終わるまでは〜あかん〜」
祐太「キ、キスは〜」
幸子「それは〜いっぱい〜ええよ〜」
二人、抱き合ってぎこちなくキスをする。
○観音湖湖畔
克己と詩織が笑いながら地面を探している。由里が二人に近づく。
由里「どうしたの?」
克己「詩織ちゃんが、四葉のクローバーが欲しいって」
由里、膝を折って手元の一本を抜き、詩織に差し出す。
由里「はい、どうぞ」
詩織、そのクローバーが四葉なのを見てにっこり笑う。
詩織「はい、克己ママ」
克己「あら、私に?」
詩織「四葉のクローバーは幸せだって本に書いてあったの」
由里、もう一本抜き、詩織に渡す。
由里「じゃ、これは詩織ちゃんが持ってて。克己ママとお揃いね」
詩織「ありがとう、克己ママと一緒〜」
受け取って、詩織、克己に抱きつく。
○ ロビー
ソファーで藤崎が退屈そうにコーヒーを飲んでいる。
藤崎「何だか取り残されてるような・・」
○観音屋敷、司葉の書斎
夜、机で本を開いている司葉。ドアをノックする音。
克己「あの、少しお時間を頂いてよろしいでしょうか?」
司葉「入りなさい」
克己が入室してドアを閉める。司葉が手でソファーを指し、克己が座る。
司葉「どうかしたかね?」
克己「虫のいい話とは判っていますが・・祐太さんから羽南市に尾仁村の農産物を扱っている明正グループのスーパーがあると聞きました」
司葉「うむ、三男がやってるチェーンだ。今の状況で健闘している」
克己「前の会社で仕入れ事務の経験があります。パートで雇っていただけないでしょうか?」
司葉「物を検めず伝票操作だけかな?」
克己「すみません」
克己、顔を赤くして身を縮める。
司葉「何故、羽南市に?」
克己「詩織ちゃんの・・近くにいてやりたいんです」
司葉「帰りたくないとぐずってるようだな」
司葉、電話をかける。
司葉「ネズミ、例の書類を持ってわしの書斎に」
司葉、電話を置き、克己に向かい合う。
司葉「それなら高田製作所に入ってくれないか。社長は高志だが、オーナーはわしだ。去年、高志の奥さんが事故死してから会社の雰囲気が悪い」
克己「私の仕事は?」
司葉「問題を見つけ、改善を提案する。高田一家のハウスキーパーも業務に入れておく」
ドアが開き、根津が入ってくる。
司葉「克己さんに手続きの説明をしてくれ」
根津「はい」
根津、大型封筒から書類を出して克己の前に置く。
根津「マンション、車、会社問題の委任状、住民票の異動、それに」
戸惑った様子で克己は司葉を見あげる。
克己「どういうことでしょうか?」
司葉「過去を清算してもらいたい。わしの直属になるなら」
克己、根津を見ると、根津は微笑んで頷き、ペンを差し出す。
克己「喜んで」
克己、根津が指差した部分に中を読まず署名する。
司葉「では、頑固者を説得してくるか」
司葉、書斎を出て行く。
○ 高田の部屋
浩志はテレビゲーム、詩織は不安そうに由里の傍にいて、高志を見ている。高志と司葉は部屋中央で向かい合い話している。
高志「会長のお言葉ですが、筋が違います」
司葉「どう違う」
高志「会社は任せていただいた筈です。口出しされるのなら、私を首にしてください。また、家の事は個人の問題」
司葉、振り返ってゲームをしている浩志に声をかける。
司葉「浩志はどう思う?」
浩志「詩織のお守りしなくていいから助かる」
由里が何か詩織に囁く。
詩織「パパ、克己ママが家に来るの?嬉しい」
詩織の顔が、ぱっと明るくなる。
由里「高志さん、私から頼んでも駄目?」
高志「姐さんまで・・」
由里「克己さんは、私にとって大事なお友達。世間知らずの彼女に、経験を積んで欲しいの」
司葉「尾仁村しか知らないお前が世間知らずと言ってもなぁ」
由里「おかしいですか?」
由里が司葉に詰め寄り、高志が頭を下げる。
高志「わかりました・・3ヶ月」
司葉「3ヶ月?」
高志「契約期間ということで・・」
司葉が迷ったように由里を見る。由里が頷く。
○羽南市の道
高志の車。運転は高志で助手席にポケットゲームをしている浩志、後部座席が克己と詩織。
「差別撤廃、みんなで作る優しい街 人権宣言都市・羽南市」の横断幕を過ぎて市内に入る。
詩織「あれが、ママと行ったお店」
詩織が嬉しそうに窓から明正スーパーを指差す。
克己「そう、今度私とも行こうね」
詩織「うん、克己ママと行く」
車は市街地を通り過ぎ、細い道に入る。
詩織「お兄ちゃんと詩織の小学校」
詩織が学校を指差す。橋を渡り、土手を下って、車は農道を行く。田を潰して造成したような工場が見える。車を工場の横の家の前に止める。
○高田製作所
菊池「社長、お帰りなさい」
大坪「お疲れ様です」
有吉「うーーあーー」
工場の扉が開き、作業服で元気そうな若い3人の男が出てくる。四人、車から降りる。
高志「何だ、今日は休みだぞ」
菊池「すみません、東保養所の納期があるもので」
高志「代休はちゃんと取れよ」
大坪「さっき始めたばかりです。半端な時間ですから」
有吉「うーーうーー」
高志「会長付きの橋本克己さんだ。会社の実態調査と社宅の管理をしていただく」
克己「橋本です。よろしくお願いします」
高志の紹介に戸惑いながら、克己は三人に頭を下げる。
菊池「菊池です」
大坪「大坪です」
有吉「あーおーあう」
高志「有吉は舌が切れて言葉が分かりにくいが、仕事は出来ます」
菊池達の表情が曇っている。
○ 社宅、管理人室
管理人の坂田芳郎(65)と妻の芳子(60)が困惑した顔で高志を見ている。
坂田「あの方が管理されるというのは、私ら辞めろということでしょうか」
高志「いや、102号室に住みますので、ここの仕事を教えてあげてください」
坂田「でも、そうすると、私達の仕事をやられるわけですから」
高志「3ヶ月の約束です」
坂田「3ヶ月過ぎたら?」
高志「会長が決められるでしょう。でも、心配いりません」
詩織が入ってくる。
詩織「パパ、詩織も克己ママの部屋がいい〜」
高志「克己さんは何て言ってる?」
詩織「パパが許してくれたらいいって〜」
高志「そうか、後で話すよ。克己さんと一緒にいなさい」
詩織「はーーい」
詩織、出て行く。驚いた表情で、坂田夫婦が見送る。
芳子「つまり、克己さん、香織奥様の代わりを」
高志「えっ?」
芳子「詩織ちゃんの面倒とか家事をやって、ここの手伝いをしてくれて、会社が良くなるように考える、香織奥様と同じですね」
高志「まぁ・・大体は」
芳子「わかりました」
芳子、にっこり笑う。高志、ちょっと顔をしかめるが何も言わない。
○居酒屋
奥の座敷に、菊池、大坪、がビール、「私が運転手」ワッペンの有吉はジュースを飲んでいる。佐藤(52)が入ってきて席に座る。店員が近寄る。
佐藤「本日のお勧めをくれ、車だから飲み物はウーロン茶でいい」
店員が注文を復唱して去り、佐藤は菊池を見る。
佐藤「それで、どういう事だ?会長のスパイ?」
菊池「判らないんですよ、専務。会長付きで会社の実態調査と社宅管理と社長は仰いました」
大坪「でも、詩織ちゃんは克己ママとか呼んでなついてます」
佐藤「年齢は?」
大坪「そうですね、20代後半か30代前半」
菊池「どうしましょうか?やっぱりスパイですかね〜」
佐藤「観音湖に呼ばれれば、何かあるとは思ったが・・」
大坪「でも、初めてじゃないでしょう」
佐藤「会長の奥様が香織さんを気に入ってらしたからだ。状況が違う」
有吉「「うーうーうー」
佐藤「いや、優しそうな人とか、そういうのは関係ない」
大坪「でも、坂田のおばさんは、会長が社長の再婚相手に送り込んだんじゃないかって言ってました」
佐藤「なるほど・・そういう見方もあるな」
菊池「どうなるんですかね〜」
佐藤「俺は社長のやり方に反対だ。お客優先と言っても、企業であれば利潤を追求する。赤字を免れているが、合理化は必要だ」
有吉「あーーううあーー」
佐藤「程度問題だ、有吉。会長は甘くない」
菊池「鬼の司葉健、仏の司葉健・・専務は会長に会われた事があるんですか?」
佐藤「20年前まで明正電気にいたからな。たまたまの挨拶程度だ。顔も名前も覚えておられないだろう」
大坪「恐い方ですか?」
佐藤「そりゃ、ひと睨みで知事だって身が縮む。今の社長の状態じゃ、とても対抗できない」
菊池「社長が辞める事になったら、専務が次の社長ですか?」
佐藤「まさか。あっさりと倒産させられるよ」
大坪「3ヶ月らしいです。あの人がいるのは」
佐藤「会長の猶予期間だな。その間に何とかしろと・・駄目だったら会社を整理するつもりだ」
菊池「どうします?」
佐藤「とにかく橋本克己、その女の前で会社のだらしない所は見せるな。経理は調べられても大丈夫だ。役員室に会長の写真を額縁に入れて飾っておけ」
菊池「そんなもん、売ってますか?」
佐藤「明正スーパーに伝手があるだろう。事情を話してコピーでも貰って来い」
有吉「うーあーあーうー」
大坪「大丈夫だって、有吉。俺達の会社だ、潰されてたまるか」
○社宅・克己の部屋
部屋には詩織の勉強机やぬいぐるみも運び込まれている。布団で疲れて眠っている詩織。それを確かめて、克己は部屋を出る。玄関を過ぎてすぐ高田の家の裏口。
○高田の家
克己、廊下を進んでリビングに入る。リビングでは、ソファーで高志がウイスキーを飲んでいる。
克己「詩織ちゃん、寝ました」
高志「どうも、まったく世話になりっぱなしで」
克己「あの・・余計な事だと思うんですけど」
克己、高志の前に座る。
高志「何でも仰ってください」
克己「浩志君、ゲームのやりすぎじゃないでしょうか」
高志「そうですね・・」
高志、グラスの氷を見つめる。
高志「私の家は貧しくて、おもちゃなんか何もなかった。それで、子供には自由に育って欲しいと思ったんですが・・限度が判らない。男の子だから、自分の事は自分で責任を持て、それだけを言ってます」
克己「私も、今の子供達ってわからないんですけど」
高志「詩織は、甘えたがりですし・・母親の事故死を目前で見てますから・・男親じゃ役に立たないんです。詩織の事を頼みます」
克己「3ヶ月は、私に出来るかどうかの試用期間ですね」
高志「我々は嫌われ者なんです」
克己「どういう意味ですか?」
高志「坂田さんが教えてくれますが・・自治会を除名されています。半端者と障害者が多い会社で、近所じゃ入れる店も限られています。詩織だけでも、伸び伸びと育つ環境をと考えていました」
克己「差別ですか?」
高志「公民館の館長は健全な地域作りの為と言ってますがね。貴方も嫌な思いをするでしょう。それでも、会長と姐さんの期待がある」
克己「私の為の3ヶ月?」
高志「まぁ、区切りと考えてください」
高志、ウイスキーを飲み干し、瓶の蓋を閉める。
克己「明日の朝は?」
高志「私は会社で朝食を取ります。7時頃に浩志と詩織に朝食をやって下さい。7時半過ぎに、今は集団登校とかで、学校近くまで送ってやってくれますか」
克己「わかりました、おやすみなさい」
高志「よろしく」
克己、裏口へ出て行く。
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