○高田の家の前

 早朝、克己と詩織、浩志が玄関から出てくる。浩志は不機嫌な顔。会社の前にはマイクロバス。後部から車椅子の人を降ろしていた有吉が三人を見つける。

有吉「おーあーーよー」
克己「おはようございます」

 克己、バスの周囲にいる車椅子の人たちや、手伝っている人たちに挨拶を交わして詩織と手を繋ぎ、学校へ道を進む。浩志は少し前を歩いている。

浩志「だから明日の朝はトーストにしてよ、おばさん」
詩織「克己ママ、詩織はご飯とお味噌汁がいい」
克己「浩志君、一緒に食べるんだから、同じがいいわ」
浩志「お父さんは別じゃないか。僕、先に行くよ」

 浩志、脇道へ走り去る。克己も後に続こうとするが、詩織が止める。

詩織「克己ママ、学校はこっちの道」

 詩織に袖を引かれ、克己は道を進む。

○市道、藍川橋

 山田敦子(26)と小学生が3人、橋の欄干傍にいる。克己と詩織が合流する。

陽介「詩織ちゃん、おはよう〜」
翼「おはよう〜」
絵理「おはよう〜」
詩織「おはよ〜」

 敦子、戸惑ったように克己を見る。克己、会釈する。

克己「家政婦の橋本克己です。これからは私が詩織ちゃんを送ってきます」
詩織「克己ママよ」
陽介「へー、新しいママなんだ」
克己「違います、ただ詩織ちゃんがそう呼んでいるだけで」

 克己と敦子が歩き出し、子供達も話しながら付いてくる。

敦子「陽介の母で山田敦子です。浩志君は?」
克己「途中で先に走っていきました。山田・・もしかして御主人は尾仁村の人ですか?」
敦子「よくご存知ね。こちらの出身?」
克己「いえ、ここに来る前、尾仁村でお世話になって」
敦子「え〜、それじゃ、かのさんの新しいお友達?」
克己「はい?ええ、由里さんにはよくしていただきました」

 敦子の硬い警戒する表情が消えて、満面の笑みに変わる。

敦子「主人だけじゃなく、私の母も尾仁村なの。盆、正月には尾仁村に帰るわ。さっちゃんが結婚するそうね」
克己「ええ、祐太さんと」

 通りで他の集団登校の流れに合うが、会釈だけで敦子は合流しない。

敦子「祐太さんって知らないけど、真面目だって主人の兄が褒めていたわ。さっちゃんとは仲良しなの」

 藍川小学校の校門に着く。

詩織「克己ママ、迎えに来てくれる?」
克己「ええ、待っててね」

 詩織、にっこり笑って他の子供達と校門に入る。見送る克己と敦子。

○山田敦子の家

 リビングからコーヒーとお菓子を運んでくる敦子。克己はソファーでアルバムを見ている。

敦子「2年前の海水浴。これが香織さん」
克己「綺麗な方」
敦子「とても明るくて優しい人。皆に好かれてたから公民館と自治会も製作所に手を出せなかった」
克己「社長から聞いたけど自治会を除名されたのね」
敦子「ちょっと待って、校区地図があるわ」

 敦子、電話台の引き出しから地図を出して、テーブルに広げる。

敦子「藍川校区は、商店街の藍川西町、学校のある藍川中町、住宅街の藍川新町、川を挟んで私の上原町、製作所のある下原町の自治会に分かれていて、上原町と下原町は校区統合で5年前に藍川校区に編入されたの」
克己「下原町の自治会長が製作所を嫌ってるのね」
敦子「自治会長はね、安藤建設の社長なの。安く倒産した前の会社の土地と建物を手に入れるつもりだったのが、余所者の高田さんに横から買われて恨んでるみたい」
克己「自治会長の個人的な利害だけで?」
敦子「理由はいろいろ言ってるけど。風紀の乱れとか」
克己「公民館は関係あるの?」
敦子「羽南市の公民館長って、地域での権限が大きいの。上原、下原町が加わって、市内でも2番目の住民数だと威張ってるけど、権威を笠の建前ばかり。思い通りにならない高田製作所を嫌ってるというより、本当は恐がってるんだと思うわ」
克己「でも、好き嫌いで除名は出来ないでしょう?」
敦子「去年、市が健全街宣言で、優良店、企業の指定制度を作って、選定を公民館に委託したの。その条件に、暴力団関係者には売らないというのがあるのだけど、公民館長は高田製作所を暴力団資金源企業の疑いありとしたわけ」
克己「そんな・・」
敦子「優良店の指定を受けると、市の手続きが簡素化されるし、店にシールを貼れば宣伝にもなる。指定を取り消されない為に、高田製作所の出入りを禁止してるの」
克己「でも、どうして暴力団資金源なんて」
敦子「製作所の土地を手に入れるため、安藤建設は暴力団を使ったんだけど、高田さんが相手と知って、暴力団は手を引いたわけ。つまり、高田さんも暴力団だからというわけね」
克己「自治会に入ってないと、どういう不利益があるのかしら?」
敦子「ゴミの収集が来ない、市役所便りと公民館報が来ない、地域のイベントに参加出来ない、自治会が絡む学校連絡から外される」
克己「学校も関係あるの?」
敦子「詩織ちゃんと浩志君は登校の班に入ってないの。それで、香織さんと親しかった私達の班が連れて行ってるわけ」
克己「ひどいわ・・」
敦子「自治会役員会でね、高田さんにも釈明の機会はあったの。で、館長と安藤自治会長が、ヤクザじゃないなら、服を脱げと言ったらしい。入れ墨がないかどうかね。高田さん、勘弁してくださいって、退席したらしいの。それで、多数決で除名決定」
克己「観音屋敷で・・別に・・」
敦子「私も、詩織ちゃんに聞いてみたの。お父さんの体に絵が描いてないかって。ないって詩織ちゃんも言ってたわ」
克己「高田さんに聞いてみます。ちゃんと抗議しないと」
敦子「私もそう思う。おかしいと思ってる人は多いの。でも、自治会長や公民館に逆らうと生活に影響が出るから」
克己「敦子さんは大丈夫?」
敦子「かのさんに嫌われる方が、ずっと恐いわ」

 敦子、にっこり微笑む。

○高田製作所

 帰ってきた克己。製作所の中が騒がしい。中に入る。

亜美「品番を間違えたのは私なのに、何故黙って処理するんですか!」
高志「竹井君、もう解決している」
亜美「何も解決していません!社長が謝って、違約金を払って、どうして私を責めないんですか!」
高志「私は責任者で、契約だから」
亜美「それなら、私は担当者です!ミスをした張本人です!」
菊池「亜美ちゃん、抑えて・・」
亜美「菊池さん、大坪さんは、納品を間に合わせる為に休日出勤をしたんでしょう?有吉さんは、東保養所で怒られたんでしょう?どうして私に文句言わないのよ!」
佐藤「亜美君、もうよせ。忙しければ、ミスもある」
亜美「忙しければミスは普通ですか?それでいいんですか?専務」
佐藤「いや・・よくないが・・」

 佐藤、克己がいることを目配せで亜美に知らせようとするが、興奮している亜美は気づかないで高志に向かい合う。

亜美「私が身障者だから叱らないんですか?それこそ差別です!社長なんて大嫌い!会社を辞めます!」

 亜美、泣きながら車椅子の向きを変えて役員室から出て行こうとして、前に立ふさがる克己に気づく。

亜美「あ・・」
克己「竹井亜美さんね。社長も、会社も、仕事も嫌い?」
亜美「いえ・・大好きです」
克己「じゃ、辞めるなんて言わないでね」
亜美「でも・・私、初歩的なミスをして・・迷惑を・・」
克己「じゃ、ミスしてもチェック出来る方法を一緒に考えましょう」
亜美「はい・・」

 亜美の車椅子に合わせて膝をついていた克己が立ち上がる。高志が周囲を見回した。

高志「皆に紹介しておきます。オーナーから3ヶ月間、会社の監査をやっていただく橋本克己さん。私の家、社宅の管理も手伝ってもらいます」
克己「橋本克己です。小さな会社の経理しかやった経験がありません。それでも一所懸命に頑張りますので、宜しくお願いします」

 挨拶が終わった克己に全員が拍手する。克己、社長席の上にある額縁に気づく。

克己「あら?この写真は・・」
高志「私も気になっていたんですが・・誰か知ってますか?」
克己「確か、歴史小説家の司馬遼太郎です。見覚えがあります」

 佐藤、菊池を睨む。菊池、俯く。

高志「司馬遼太郎の小説は私も好きですが・・何でここに?」
佐藤「あの・・財界での人気が高く・・流行してるそうです」
高志「そうですか、専務の判断なら別に構いません。では、仕事に戻ってください」

○校門

 待っている克己。出てきた詩織が飛びつく。

○帰り道

 手を繋いで歩く詩織と克己。

詩織「一緒のお買い物は、いつ行くの?」
克己「明日か明後日、根津のおじさんが車を持ってきてくれるの」
詩織「わぁ、楽しみ〜」

○工場裏の焼却炉

 夕方、坂田と克己がゴミを焼却している。

坂田「社宅に、刺青入れてる奴がいるんですよ。社長が服を脱ぐことで潔白を証明したら、奴は黒になる。民生委員の斡旋で入社したのに」
克己「それだったら、若い人の更生に協力してるのでしょう?褒められても責められるのはおかしいわ」
坂田「民生委員は、押し付けようとした子を社長が断ったので逆恨みしている。社長は、仲間の喧嘩はいいが、女性を傷つけた奴は認めない。まぁ、館長も事務員も、民生委員も自治会長も地元の仲間だから」
克己「「事務員さんも関係あるんですか?」
坂田「実際に仕切ってるのは女事務員なんですよ。公民館の利用で、香織さんが川向こうの既得権に代表して苦情を言ったのを根に持っていたみたいです」
克己「何だか・・除名されて良かったような・・」
坂田「そう、今は私達もそう思ってます」

○ 高田の家

 高志が居間に戻ると、浩志がテレビゲームをやっている。テーブルには一人前の食事。高志、座って食べる。

高志「詩織は?」
浩志「風呂に入って、おばさんの部屋」
高志「そうか」

後は、黙々と食べ続ける高志。

○ 居酒屋

 奥の座敷、菊池、大坪、有吉と常務の佐藤。

佐藤「坂田のおばさんが正しいかもしれないなぁ」
菊池「社長の再婚相手ですか」
有吉「おーうーいー」
大坪「いいと思いますけど・・」
佐藤「うん、社長に再婚する気はない」
菊池「どうします?」
佐藤「協力する。無理と判っていても会長の希望だ」
有吉「うーうー」

○ 克己の部屋

 布団の中で詩織に本を読んでいる克己。

○高田の家の前

 明るい紫色の軽自動車KEI。にやついている根津と、不機嫌な高志。集団登校から戻ってきた克己。

克己「詩織ちゃんを学校に送ってきました。わぁ、素敵な車、本当にいいんですか?」
根津「はい、克己さんの車は会長が傷つけたんですから」
高志「だから、別の車に替えてくれ」
克己「えっ?」
根津「似た車が詩織ちゃんも喜ぶだろう。克己さん、これは香織さんの愛車と同じ色、同じ車種なんです。年代は違いますがね」

 高志、工場から呼ばれて戻る。

根津「あいつは、忘れる気がないのに、思い出すのがつらいんですよ。家でも香織さんの物は見ないようにしてるでしょう」
克己「ええ、写真もありません」
根津「一種のうつ病ですね。さて、車の説明をしましょう。運転してください」
克己「はい」

 根津が助手席、克己が運転席で車が発進する。

○羽南市内

 車の中の二人。

克己「カーナビは助かります。これで走りながら憶えられるし」
根津「まぁ、3ヶ月だし、無理する事ないですよ」
克己「嫌です。ここで、必要な存在になります」
根津「貴女が?」
克己「おかしいですか?」
根津「岩手の貴女を調べました。確かに出生について同情すべき点はありますが、逃げ回って閉じこもっている。自分しか見てない。はっきり言って、甘ったれた嫌いなタイプです」
克己「私もそう思います」

 根津、克己を見る。

克己「会長から己に克、克己という名前を頂いて、由里さんには友達と認めて頂いて、詩織ちゃんには、こんなに好かれて。私、もう逃げません。立ち向かいます。ここを私の居場所にします」
根津「近くで止めて」

 克己、車を道の端に寄せて止める。根津、シートベルトを外す。

根津「応援するよ。助けが欲しいときは携帯に電話してくれ」

 根津、克己に名刺を渡す。克己の車の後ろに、黒塗りの車が止まる。根津、車を降りて黒塗りの後部に乗る。黒塗り、そのままスタートする。

○製作所の事務室

 夏服。亜美と克己が机を並べてPC作業している。亜美のデータを克己が加工。

克己「フォームを変えて、顧客データ、注文データ、製造データをリンクさせ、品番と価格を別に入力すればチェック出来るわ」
亜美「そうですね。価格が同じ場合は?」
克己「品番を間違えないように、小文字を使いましょう」

 亜美が克己のデータを移し変えている。隣の会議室から話し声。

大坪「チャイルド用は、もう少し重くした方がいいと思います。風とかで倒れたら危険です」
高志「重くすると、下敷きになった場合も考慮しなければならないし、倒れたら周囲に迷惑をかける」
菊池「使い分け出来ればいいんですけど、競馬の鞍みたいに重りをつけるとか」
佐藤「付け替えはなぁ、安定性を高めないと」
高志「操作性はどうなる?女の子の力でも無理せずに動かせるか」

 克己、立ち上がって亜美の肩に手を置く。

克己「詩織ちゃんを迎えに行って、買い物をしてきます。このやり方を検討してみて」
亜美「はい、すみません」

 亜美、克己ににっこり笑う。

○ 校門

 一人待っている詩織。克己の車が止まり、詩織が助手席に乗り込む。

克己「詩織ちゃん、スーパーで買い物ね」
詩織「はーーい、克己ママ。今夜ね、美香先生が8時に家庭訪問」
克己「今夜?何かあったの?」
詩織「知らない。家じゃなく、克己ママとの部屋に来るって」
克己「どんな先生?」
詩織「優しいよ」
克己「判ったわ。今夜は何がいい?」
詩織「ハンバーグ〜」
克己「カレーは嫌い?」
詩織「パパもお兄ちゃんも食べないから」
克己「じゃ、ハンバーグにするね」
詩織「わーーい、克己ママのハンバーグ、大好き」

○ 明正スーパー

 尾仁村の肉、野菜をカートに入れている克己。詩織が新発売瓶詰め尾仁ミックスジュースを持ってくる。

詩織「克己ママ、これも買って」
克己「あら、出来たのね。ケースで買いましょう」
詩織「車で1本、飲んでいい?」
克己「いいわよ」

二人、レジに進む。

○ 克己の部屋

 夜、詩織がドアを開けて栗原美香(35)を部屋に入れる。

美香「こんばんは、夜分にすみません」
克己「いえ、お世話になっています」
美香「高田さん、お父さんとお兄さんは?」
詩織「家にいる。呼んでくる?」

 克己、美香のためらいを読む。

克己「詩織ちゃん、先生とお話するから、お兄ちゃんのとこに行っててくれる?」
詩織「はーーい、先生。尾仁ジュース飲んでね」

 詩織、美香に笑って出て行く。美香、坐る。

美香「尾仁ジュースって何ですか?」
克己「尾仁村のミックスジュースです。私も詩織も村では飲んだ事があるんですけど、製品化されていたものですから。どうぞ」

 克己。冷蔵庫からジュースを出してコップに分け、美香の前に置く。美香、飲む。

美香「おいしい・・」
克己「よかった」
美香「橋本さんは、尾仁村の方ですか?」
克己「いえ、知り合いがいるだけです」
美香「そうですか・・実は、他の父兄から苦情が来ていまして」
克己「何か?」
美香「幼稚園じゃないのだから、下校に迎えは禁止すべきだと」
克己「集団登校の班で、詩織と浩志は外されています。それに、子供にとって危険なのは、登校より下校じゃないでしょうか?」
美香「私もそう思います」

 美香、ため息をつく。

美香「それに、高田さんは去年、下校時に集団で苛められました。それからは、お兄さんの授業が終わるまで待って、一緒に帰っていたんです。今はクラスで山田君たちが一緒ですし、橋本さんが迎えに来ていますから問題が起きずにすんでいます」
克己「その、集団で苛めた子供達の名前は判っているんですか?」
美香「苦情を言ってきた父兄の子供達です」
克己「どういうことでしょうか?」
美香「高田製作所は自治会から除名されています」
克己「はい、理不尽な決定と思いますが」
美香「ええ。今の小学校は地域に開放され、行事や講堂、グラウンドの使用で校区公民館と連帯しています。公民館は、自治会と地域協議会、老人会、婦人会、オヤジの会、こども会、趣味のサークルのまとめ役もしていますが・・幹部の大半は藍川中町と藍川西町の地元出身なんです。そしてPTA会の役員も・・」
克己「除名されて自治会費を払ってないから、子供は学校に行く資格がないと?」
美香「実は、藍川新町の自治会に加入してない家の子供も苛められてるんです」
克己「学校は見逃しているんですか?」
美香「校長は4月に赴任したばかりで、教頭は公民館長の飲み友達です。苛め問題は担任が責任を持って解決する事になっています」
克己「私達だけの問題じゃなかったんですね・・」
美香「校区出身の市議会議員が3人います。行事には必ず挨拶しますし、公民館報にコラムを持っています。安藤建設は市長の後援会長です。自治会に入っていないというのは、地区活動だけじゃなく、市政に対しても非協力的になるんです」

 克己、美香のコップにミックスジュースを注ぎ足す。美香、礼を言って飲み干す。

美香「信じられませんわ、あの親の身勝手さ。それをごもっともと受ける教頭。で、命じられて説得役の私。明日、学校には理解を求めたが、受け入れてもらえませんでしたと報告します」
克己「私、市役所に相談してみます。ゴミの収集と機関紙だけの問題ならと我慢していましたが、根は深いんですね」
美香「それなら、市民相談課の山崎さんを訪ねてください。事情を知ってます」
克己「わかりました、ありがとうございます」
美香「それで、このジュースは何処で売っています?」
克己「明正ストアーに入荷していました」
美香「明日、買いに寄ります」

 美香、すっきりした顔で微笑む。

○ 市役所、会議室

 長机とパイプ椅子。待っている克己。三人の職員が入ってくる。克己、立ち上がる

河井「総務部の河井です」
山崎「市民部の山崎です」
立川「企画部の立川です」
克己「お忙しいところ、申し訳ありません。高田製作所の橋本克己です」
河井「お話をお聞かせ下さい」
克己「はい・・」

 克己、話し始める。

○ 同、会議室

 河井と山崎、立川が克己から離れた机で相談している。河井が頷き、三人、克己の前の席に戻る。

河井「まず、ゴミ収集についてご説明します。当然ながら、市民である高田さんにはゴミを収集させる権利はありますが、収集場所は自治会の申請で設定しています。最寄の収集場所の使用を自治会が拒否する権利はありません」
克己「でも、嫌がらせを受けています」
山崎「その話は後で。除名の問題ですが、下原自治会が校区自治会に申請して多数決により決定となっています。校区民の地域生活に甚大な悪影響を及ぼすという理由で、自治会として越権とは言いがたい部分があります」
立川「優良店指定制度についても同じです。溝田館長は市の暴力団追放委員会の会長で、市会決議をうまく利用しています」
克己「つまり、自治会や公民館が正当で、苦情を言う方が間違っていると?」
山崎「とんでもない。実態は我々も判っています。それで提案なんですが、独立自治会を設置しませんか?」
克己「独立自治会?」
立川「本来は飛び地や遠隔地の制度です。これで、ゴミ問題と除名による不利益は解消されます。申請を出していただけるなら受理します」
克己「わかりました、申請します」
山崎「自治会の名前は・・これが、けっこう難しい。下原第二とか高田自治会というのは誤解が生じますので」
克己「カオル自治会は駄目でしょうか?」
河井「カオル?どういう意味でしょう?」
克己「いえ、歌手のカオルさんが好きですから」
山崎「それ、いいなぁ。賛成です」

 河井と立川も和やかに笑う。

立川「それで、公民館組織から離れたコミュニティを運営できます。これは有志で、公式に認められます。ネットをされるならお手伝いします。」
克己「もしかして、敵の敵は味方?」
河井「利害が一致するとお考え下さい」
克己「わかりました、宜しくお願いします」

○ 会社事務室

 パソコンから目を上げて、時計を見る亜美。

有吉「あーおーうー」
大坪「克己さん、自治会設置でコミュニ会員集めしてるから」
亜美「ええ・・でも今日は約束してたの」

藤崎が入ってくる。

藤崎「やぁ、みんな元気に働いてるかな?亜美ちゃん、相変わらず可愛いね〜」

 藤崎は明るいが、彼を迎えた事務室は目礼程度で無視している。役員室から高志が出てくる。

高志「お久し振りです、教授。今日は何か?」
藤崎「実は、警察署に我が四葉劇団の推薦をとろうと乗り込んだんだ。振り込み詐欺を題材にしてるから、老人会の集会でやらしてもらおうと思ってね」
高志「それで?」
藤崎「一般的じゃない、騙される方も悪いと言い張る刑事がいて、じゃ実験でその刑事の奥さんがどう反応するかを署長室で実験したわけだ」
高志「はい」
藤崎「私が刑事になりすまして電話した。事故で子供を轢いてしまったから、示談金を振り込めってね。すると、その奥さんが、それなら安川組に頼め、金を払わず解決させろって言い出した」
高志「警察と暴力団の癒着ですか。珍しくもない」
藤崎「まぁな、だが署長室は大騒ぎになって、追い出された。それで、お茶でも飲ませてもらおうかと寄ったのだが」
高志「それなら、役員室にどうぞ」
藤崎「いや、さっき克己さんにご馳走になった。それで、克己さんの顔色が悪いから、疲労回復の薬をあげたんだが・・」

 事務室の動きが止まる。みんな、藤崎を見つめる。

藤崎「いや・・大丈夫・・副作用が出ただけで・・」
亜美「私、咳止めの薬で、下痢が止まりませんでした」
菊地「俺は胃薬で喉が腫れた」
佐藤「毛生え薬については・・思い出したくない」
有吉「あーーうーーうーーうーー」
藤崎「まぁ、体質もあるし・・」
高志「で、克己さんの副作用というのは?」
藤崎「まぁ、めまい、痺れ、眠気、熱が出る程度だ。今は部屋で横になってる」
大坪「それって、インフルエンザと同じ症状じゃないですか」
藤崎「うん、だから併発すると不味い。安静にして、あまり人は近づかない方がいいな」
亜美「社長、病院に行った方がいいんじゃないでしょうか?」
藤崎「こらこら、亜美ちゃん、私が医者だよ・・」
高志「大坪君、坂田さんに事情を話して、時間には詩織の迎えを頼んでくれ」

 大坪が出て行く。

藤崎「それじゃ・・・あとはよろしく」

藤崎、冷たい視線を浴びながら出て行く。

○ 克己の部屋(克己の目)

 目が開く。心配そうな詩織。

詩織「克己ママ、病気なの?大丈夫?」
克己の声「大丈夫よ。少し寝れば・・」

 目が閉じられる。

坂田奥さんの声「薬の副作用の薬って売ってないし・・」
高志の声「教授の薬の副作用は一晩だけですから・・おそらく」

 目が開きかけて、すぐ閉じる。

香織の声「克己さん」

 目が開く。夜、ぼやけた白装束の香織(38)が微笑んでいる。

克己の声「香織さん・・私も死ぬんですか?」
香織「違うわ」
克己の声「私・・香織さんのようになりたかった」
香織「なれる、いえ、貴女しかなれない。貴女は私だから」
克己の声「香織さんが私?」
香織「貴方とは一つの魂から分かれたの。同じ魂を持つ存在なのよ」
克己の声「意味が・・わかりません」
香織「時と環境は違っても、私たちは同じ心を持っていた」
克己の声「私は私です」
香織「私は死んで魂に戻ってしまった。残した家族を貴方に託したいの」
克己「私は香織さんにはなれません」
香織「なれるわ・・私を受け入れて」

 克己、ゆっくり目を閉じる。

香織「そして、浩志を・・」
克己の声「浩志君?詩織ちゃんじゃなく」
香織「浩志が、一番苦しんでる」

 目を開こうとして、また閉じられる。


○克己の部屋

 朝、鏡を見ている克己。ノックの音、坂田の奥さんが入ってくる。

克己「おはよう、ご心配かけました」
坂田妻「夜中、うなされてたみたいだったけど大丈夫?」
克己「そうですか?憶えていません」
坂田妻「まったく、あのヤブは・・私も痩せる薬を試しに貰って、腰痛で一晩苦しんだの。今日は土曜で学校は休みだし、のんびり寝ていたら?」
克己「とんでもない、もう元気です。朝食の準備をしないと」

 克己、時計を見て部屋を出て行く。

○ 高田の家

 キッチン、朝食を作っている克己。嬉しそうに手伝う詩織。高志が現れる。

高志「大丈夫ですか?」
克己「ええ、もうすっきり。新聞はテーブルの上。朝食はすぐ出来るわ」
高志「いや、すぐ出かけます」
克己「食べてからにして」

 克己の強い口調に、高志が戸惑う。

克己「詩織、浩志君を起こしてきてね。朝食、お父さんも一緒だと言って」
詩織「はーーい」

 詩織、子供部屋に走っていく。

○ 食堂テーブル

 四人、朝食中。黙々と食べる高志、気にしている浩志。

克己「浩志君、おかわりは?」
浩志「もういい」
高志「ご馳走様でした。では、出かけます」

 高志、玄関に向かう。克己、立ち上がって付いて行く。詩織が続き、浩志もつられる。高志が靴を履いてる時、3人が揃っていた。

克己「いってらっしゃい。遅くなるようだったら電話ね」
詩織「パパ、いってらっしゃい」
浩志「いってらっしゃい」
高志「ああ・・行って来ます」

 高志、玄関を出る。3人、食堂に戻る。

詩織「克己ママ、今日は何をするの?」
克己「まず、お買い物」

 後片付けをしている詩織、克己。テレビゲームを始める浩志。

克己「浩志君も一緒に行くのよ」
浩志「僕、留守番する」
克己「駄目、貴方の服も買うから。どうしてあんなに破れたり汚れたりするの?」
浩志「外で遊べば汚れるのは当たり前」
克己「ゲームはやめなさい」
浩志「何で?」
克己「本を読んだりする方が面白いわよ」

 浩志は克己を睨み、ゲームの電源を落として自分の部屋に戻る。

○明正スーパーの2階、衣料品コーナー

 浩志の服を選んでいる克己。迷惑そうな浩志。包装してある包みを大事そうに持っている詩織。男性店員が近づく。

店員「毎度ありがとうございます。高田製作所の橋本様ですね?」
克己「ええ、そうです」
店員「社長と店長がお話したいと申しますので、来ていただけないでしょうか?」
克己「司葉社長がいらっしゃってるの?」
店員「はい。お子様は私どもでお世話いたします」
克己「わかりました。浩志君、詩織、待っててね」

 克己、店員に付いて奥の従業員専用口へ行く。

○店長室

 応接セットの司葉社長(55)と店長、副店長が入ってきた克己に応対する。

社長「父がお世話になったようだね」
克己「逆です。私が大変、お世話になりました」
店長「克己さんは、このスーパーの事務をやりたいと会長に申し出られたそうです」
社長「それは無理だ。副店長くらいで勘弁してくれ」
副店長「え〜、そうすると私は・・」
店長「実は、藍川自治連会から高田製作所を出入り禁止するよう申し入れがあった。聞き入れなければ、校区で不買運動を起こすと」
克己「まぁ・・そこまで・・」
社長「父から、自分のオーナー会社でも高田製作所を特別扱いするなと言われているが、この事態を放ってはおけない。コミュニティの参加者を募集してるそうだね」
克己「はい、公民館は使えないので、ホームページの親睦組織です」
社長「店長に協力を惜しまぬよう指示してる。また副店長はネットの専門家だ、役に立ててくれ」
克己「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」

克己、三人に頭を下げる。

○ 高田の家、居間

 ソファーで本を読んでいる浩志。詩織は陽介と遊んでいる。克己と敦子、テーブルに地図とノートを広げて熱心に話している。相変わらずの黒服で高志が入ってくる。

克己「あ、ごめんなさい。気がつかなくて」
敦子「お邪魔しています」
高志「いえ、山田さんには世話になっています。どうかしました?」
克己「高志さん、コミュニの事務室を会社に作れない?狭くてもいいの」
高志「そうですね、役員室に仕切りを入れましょう」

 高志、ちょっと眉をひそめる。

高志「カレーですか?」
敦子「私も帰って晩御飯を作らないと。陽介、帰るよ」
陽介「じゃ、詩織ちゃん、また明日」
詩織「うん、またね」

 敦子と陽介が玄関に向かい、克己と詩織が送る。

○高田の居間

 テーブルにカレーを並べる克己。詩織はスプーンを置く。克己は気になる様子をしながら、ソファーから離れない。着替えた高志が自分の部屋から出てくる。

克己「出来たわ。坐って」
高志「克己さん、前にも言いましたが・・カレーは苦手なんです」
克己「好き嫌いは駄目。浩志君まで食べないと言い出すから」
浩志「僕、お腹すいてない・・」

 詩織、我慢できない様子で、自分の分を口に入れる。

詩織「おいしい、ママの味」
浩志「えっ?」

 浩志、坐って一口食べる。

 浩志「本当だ、お母さんの味だ」

 高志、二人の様子を見て、自分も坐り食べる。

克己「沢山あるから、お代わりしてね」

 食べている三人に、克己、にっこりと微笑む。

○居間

 ソファーで書類を眺めている高志、克己が入ってくる。

克己「詩織、寝たわ」

 ためらいなく、高志の横に坐る。

高志「どうかしたんですか?」
克己「何が?」
高志「いや・・話し方とか・・詩織を呼び捨てにしたり・・」
克己「私、香織さんになるの」
高志「克己さんと香織は別です」
克己「判りました?カレー」
高志「博多の湖月を懐かしがる私に、香織が苦労して作ってくれたカレーの味です。誰に聞きました?」
克己「香織さんに」
高志「香織が敦子さんに教えていて、それを克己さんが」
克己「もう、私との契約は残り1ヶ月ね」
高志「ええ・・」
克己「期限を過ぎても、私、居座りますから」
高志「それは、話し合って決めましょう」
克己「はい、じゃ寝ます。おやすみなさい」
高志「おやすみなさい」

 克己、裏口の方へ去る。一人、考え込む高志。

○ 会社、カオコミ事務局

 机が4つ向かい合い、洋子(21)真由美(21)と克己がパソコンで作業している。

真由美「局長、会員申し込みが千名を超えました。桁数を増やしましょう」
克己「まだ、サイトを立ち上げてないのに」
真由美「市民だよりに掲載されて、明正スーパーにチラシを置いてますから」
洋子「フォームはほぼ決まり、あとは微調整。市から最新情報が来ますし、公民館報なんて相手になりません」
克己「悪いわね、二人にはボランティアでやってもらって」
洋子「いえいえ、私達、明正スーパーに内定してます。カオコミが成功すれば、システムか広報担当に配属されるんですもの、頑張ります」
克己「あら?」
洋子「どうかしました?」
克己「メール・・カオルさんから・・」

 洋子、真由美、席を離れて克己のパソコンを覗く。

「カオコミの克己さんへ
 カオルより

 初めてメールします。克己さんの事は、四葉チャットで前から聞いていました。私の名前でコミュニを作ってくれるそうで大変光栄です。嬉しくて、勝手に歌を作り添付しました。著作権等は譲渡いたします。
是非、私の公式サイトと相互リンクしてください」

克己、添付ファイルをクリックする。

〜カオルの歌〜

  離れていても想いが繋がる
   羽南の藍川から流れる糸で

藍川小学校校舎の屋上

 頭から血を流して倒れている吉川邦彦(11)

○小学校の会議室

 会議室は衝立で入り口側と窓際で二つに分けられている。入り口側に机がコの字に並べられ、中央に浩志が立たされていた。事務員に案内されて部屋に入ってきた克己、すぐに浩志に駆け寄って抱きしめる。
参列者は、正面が教頭、学年主任、浩志の担任の女教師。右側が同じクラスの生徒の母親、竹井、浅山、吉富。左側が被害者吉川の両親。

教頭「高田浩志の保護者ですか?」
克己「はい、岡本克己です。吉川さんは?」
吉川父「私です。こっちは妻です」

 克己、丁寧に頭を下げる。戸惑いながら、両親も答礼する。

克己「ここに来るまでに、事務の方から話をお聞きしました。邦彦君の具合は?」
吉川母「2週間の入院で、後には残らないと言われました」
克己「そうですか、良かった」
教頭「良くありません!怪我させたのは高田ですよ。保護者として責任を感じているんですか!」

 克己、浩志の顔を見る。

克己「浩志、貴方が吉川君に怪我をさせたの?」
浩志「知らないよ、僕じゃない」

 すねた表情の浩志に、克己、安心させるように微笑んでみせる。

克己「信じるわ。浩志がそんな事をする筈がない」

 克己、吉川夫婦の横に椅子を二つ持っていき、浩志を角に坐らせた後、吉川妻の隣りに坐る。

竹井「何を勝手に坐ってるのよ、図々しい」
淺川「結婚もしてないのにのこのこ来て。ふしだら女」
吉冨「ヤクザの女ですもの、水商売上がりなんじゃない?」

 向かい合う形になった同級生の親達が、一斉に克己へ非難を浴びせる。

教頭「許可していない。中央に戻りなさい」
克己「それで、浩志を立たせたまま加害者扱いで吊るし上げに?お断りします」
主任「高田がやったという証人が何人もいる。言い逃れは出来ないんだよ」
克己「浩志はやっていません。それが一番確かな事実です」
主任「何を根拠に言い切れるんだ?これが初めてじゃない、今までも喧嘩の苦情が来ている」
克己「浩志を知っています。嘘や弱いもの苛めは嫌いな子です」
担任「朝のホームルームで無記名のアンケートをとりました。クラスで半分以上の生徒が、高田君に苛められたり、苛めを見ています」
克己「その生徒さんたちより、浩志を信じます」
教頭「話にならんなぁ」

 教頭、苦い表情で後ろの衝立を見るが、反応がないので向き直り、担任に耳打ちする。その間に、克己は吉川の母親に話しかける。

克己「邦彦君はどう言っています?」
吉川母「何も。恐がってるようで」

 担任は席を立ち、竹井、浅川、吉冨に何か話す。三人が頷き、部屋から出て行く。

教頭「今回は、間違いなく傷害事件で、小学生だからと許せる内容じゃない。市教育委員会、児童相談所に報告するが、保護者にも見合った責任をとっていただく。吉川さんへ治療費と慰謝料、他の学校への転校、クラス全員への謝罪文」
克己「お断りします。浩志はやっていませんから」
主任「教頭、父親を呼びましょう。ヤクザですから警察立会いで」

 浩志の顔色が変わる。克己、浩志の手を握る。

竹井「除名されて、カオル自治会ですって?バカじゃないの」
浅川「親でもないのに突っ張って」
吉冨「母親が死んで、ひねくれたのよ」

 担任に連れられて、竹井、浅川、吉富の子供達が入ってくる。担任、椅子を持ってきて三人を坐らせる。

教頭「三人が証人だ。吉川君と高田が屋上に上るのを廊下から見ていた。高田が一人だけで降りてきたから、心配して屋上に行き、倒れてる吉川君を見つけて古沢主任に連絡し、救急車を呼んでもらった。間違いないね」
竹井「はい、そうです」
浅川「高田君以外、誰も屋上に行っていません」
吉冨「吉川君を起こしたら、高田君に殴られたと言ってました」

 浩志、顔を真っ赤にして立ち上がる。

浩志「嘘つき、吉冨は僕と講堂にいたじゃないか!」
吉冨の母「まぁ、うちの子供を嘘つき呼ばわりして!名誉毀損だわ!」

 衝立の後ろから、校長と警部が現れる。主任と教頭が席をずれて、中央に二人が坐る。

教頭「非公式に解決すればと思いましたが、無理なようです」
校長「そのようですね。こちらは県警の警部さんです。橋本さん、意見は変わりませんか?」
克己「もちろんです」
校長「浩志君、強いお母さんだね」

 浩志、優しい表情の校長に、頷く。

警部「県警が出る話じゃないのですが、私の所にいろいろと送られてきました。まずは、この写真を」

 警部、写真のコピーを回す。屋上で倒れてる吉川邦彦を蹴っている竹井、浅川は階段口で見張っている。

警部「衛星写真ですかね、時刻も入っています。それから、これ」

 警部、携帯電話を見せる。吉冨、顔色を変える。

吉冨「返せ、俺のだ!」

警部「そう、吉富君の携帯だね。写真とメールを校長と一緒に見せてもらった。竹井君、浅川君との送受信メインで。橋爪先生、さっきアンケートをとったと言われましたが、誰と作られました?」
担当「それは・・」
警部「クラス委員の竹井君と作り、竹井君が配っていますね。女の子に送った脅しメールもありました。字で誰が書いたか判る、高田に苛められたと書かなければ、裸の写真をネットに載せる。爪とイノは俺達の味方だ」

 浅川、立ち上がる。

浅川「吉川も高田も自治会費を払ってない。地域を乱す寄生虫だ、そうだよね、ママ」
浅川の母「勇ちゃん、黙っていなさい」
竹井の母「盗み撮りや携帯は証拠になりません。プライバシーの侵害です」
警部「私は警官です。法律については貴方より詳しい。ここでの会話も録音しています。たとえば・・」

 警部、ポケットから録音機を出してスイッチを入れる。

『教頭「今回は、間違いなく傷害事件で、小学生だからと許せる内容じゃない。市教育委員会、児童相談所に報告するが、保護者にも見合った責任をとっていただく。吉川さんへ治療費と慰謝料、他の学校への転校、クラス全員への謝罪文」』

 警部、スイッチを切る。

警部「吉川さん、克己さん、後は校長にお任せしませんか?学校の回答によっては、弟の元嫁さんに話を通しますから」
克己「根津さんのお兄さんですね」
警部「はい、浩志君は憶えてた?」
浩志「うん、でも言わない方がいいと思って黙ってた」

 警部と吉川夫婦、克己と浩志、正面の校長にだけ礼をして部屋を出る。

○ 羽南市民病院

 玄関にパトカーが止まり、吉川夫婦、克己と浩志が降りる。運転の警部に頭を下げ、中に入る。

○吉川邦彦の病室

 邦彦のベッド。両親、克己、浩志が周りにいる。

邦彦「ごめん、いつも守ってもらってるのに・・高田君にやられたと言わなきゃ、弟も苛めると言われて」
浩志「言わなかったじゃないか。僕なら・・詩織を傷つけると言われたら・・吉川は偉いよ」

 泣く邦彦、励ます浩志。

吉川父「ちょっとよろしいですか?」
克己「はい」

 二人、病室を出る。

○病室近くの休憩コーナー

 缶コーヒーを持った吉川父と克己が長椅子に坐っている。

吉川父「藍川新町の家を買って5年になります。一生住むつもりですから、すぐ自治会に入りました。妻は趣味人間で、公民館のサークルに入ろうとして会員の紹介が必要と断られ、絵の会を作って公民館の利用を申し込んでも、時間の空きがないと相手にされませんでした。そのくせ、こちらの都合を考慮せずに、市のイベント、公民館イベントとやたらと動員をかけられるんです。ずっと休みを潰されて、我慢できずに自治会を脱退しました」

 吉川父、憤りの表情で、缶コーヒーを飲み干す。

吉川父「抜け虫狩りという苛めの噂は聞いています。泣き寝入りする気はありません」
克己「どうされるのですか?」
吉川父「今回の件を周囲と相談します。動員のおかげで、町内の知り合いは増えました」

○市民病院近くの海岸

 海岸を歩く克己。遅れて付いてくる浩志。

浩志「帰ろうよ。詩織を迎えに行くんでしょう?」
克己「まだ時間あるわ。私と二人はいや?」
浩志「そんなことないけど・・」

 克己、振り返って浩志を抱きしめる。

克己「ごめんね、わかってあげなくてごめんね」
浩志「僕・・」

 克己、近くの草むらに腰掛ける。

克己「立派だったわ、浩志を誇りに思う。でも、一人で我慢しないで。甘えていいのよ」
浩志「克己ママ〜」

 浩志、堰が切れたように、克己の胸に顔を押し付けて泣く。

浩志「男は甘えるなってお父さんが・・お母さん、死んじゃって・・克己ママは詩織のママだから・・でも僕は・・僕は・・」
克己「お母さんに頼まれたの、浩志をよろしくって」
浩志「だって・・克己ママはお母さんを知らないんじゃないの・・」
克己「私の中にいるの、香織さん」
浩志「本当に?」
克己「本当よ」
浩志「お母さん・・」

 浩志、甘えるように克己の膝に頭を置く。

○ 海岸道路

 道路から浩志と克己がいる場所を見おろす。駐車の車、運転席に根津、助手席で半ズボン姿の慎一はイヤホンをつけている。

根津「どんな様子だ?」
慎一「大人って汚いな。人のせいにばっかしている」
根津「盗聴器は何処につけた?」
慎一「盗んだ例の携帯。どうせ証拠隠滅に捨てるだろうから、回収は難しいな」
根津「しかし、慎一のチビが役立った。小学生そのものだ」
慎一「うるせ〜、ちゃんと約束のバイト料、払えよ」
根津「約束?記憶にないな〜」

 車、発進して遠ざかる。

○羽南市役所、市長室

 窓際の机で外を眺めている市長。河井、山崎、立川が入室してくる。

河井「失礼します、市長。お呼びだそうで」
市長「掛けたまえ」

 応接セットに、3人と市長が坐る。

市長「さっき、市会議員7人からカオコミについて苦情があった。市の情報が掲載され、自治会運営に支障をきたしてるそうだ」
山崎「市の公式ホームページから抜粋した内容です。機関紙より情報を早く伝達出来ますし、広報、市民サービスへの協力を感謝すべきでしょう」
市長「自治会を地盤としている議員には気に入らないらしい。私も安藤建設から、手を打たないと後援会長を降りると脅されている」
河井「おやおや、縁を切るチャンスですね」
市長「まぁな、それでカオコミの状況は?」
立川「仮オープンで、平均アクセス数が約2万。会員は3千を超えました。協賛の明正スーパーは会員割引で、売り上げ倍増のようです」
市長「。羽南の藍川から流れる糸で〜♪この歌、会員は無料でダウンロードできるそうだな。市の広報ソングとして検討しよう。住民ネットコミュニは、立川君のアイデアだったね」
立川「一部住民の特権意識や差別を増長する体質を見直す一石だったんですが・・苛め問題で藍川新町自治会が分離し、藍川西商店街の客が激減しました。改善を試みて改革を迫られています」
山崎「元から絶たないと駄目ですよ。改革、結構」
河井「行政が指導と言いながら押し付ける流れを、住民の提案や意見を吸い上げて対応するシステムへ変えれればと思います」
市長「いいだろう。君達のプロジェクトを進めてみなさい」

○会社、カオコミ事務局

 夜、夏服の洋子と真由美がパソコンを操作している。落ち着かない様子の克己。

洋子「明正システムから壁紙の選択依頼です」

克己、自分のパソコンで候補の壁紙を順番に開く。

真由美「これ、みんな会員の人の作品ですよね。コーナーで公開できませんか?」
克己「そうね、海をモチーフにした5番目で試してみるわ」

 克己、サイトの壁紙を変える。

洋子「いいですね、これで回答しますか?」
克己「ええ、それからコーナー公開も提案してみて」
洋子「はい」

 戸が開いて、高志が入ってくる。緊張する克己。

高志「お疲れ様。今夜は遅くまで頑張っていますね」
真由美「オープンが近いですから。でも藍川有志会と明正がまとめてくれて、私達はチェック程度です」
洋子「もう、終わりましたから帰ります」
克己「浩志と詩織には、待たずに寝るように言ってます」

 真由美と洋子、挨拶をして出て行く。克己と高志が部屋に残る。高志、空いている椅子に坐る。

克己「高志さん、教えて。今日で期限の3ヶ月、私はどうなるの?」
高志「克己さんは、家にとっても会社にとっても、かけがえのない人です。これからも宜しくお願いします」
克己「良かった・・」

 克己、涙ぐむ。

高志「克己さんに比べて、自分の不甲斐なさに呆れます。本当に、何もしなかった」
克己「これからは・・一緒に・・」

 高志、表情が暗い。

高志「克己さんがいれば大丈夫です。私はイラクに行きます」
克己「イラク!どうして・・」
高志「米軍の爆撃で苦しんでいる現地の人の役に立ちたい」
克己「そういうことね。そんなに死にたいのね。家族を捨てたいのね」
高志「いや、そういう意味では・・」
克己「爆撃が高志さん、亡くなったのがマコトさんのご家族で、苦しんでいるマコトさん・・そんなこじつけまでして死にたいんですか!」
高志「誤解です・・」
克己「高志さんがうつ病なのは皆が気づいている。香織さんが亡くなって空いた穴、私では埋められないの?私では香織さんの代わりは出来ないの?」
高志「克己さんには、心から感謝しています」
克己「それなら、感謝のキスくらいしたらどうなの!」

怒りで立ち上がる克己。高志、近づいてキスする。克己、目を閉じて高志の体に腕を回す。

克己「本当に、鼻は邪魔にならないのね・・もういいわ。高志さんの思う通りにして。浩志と詩織は私が一人で立派に育てます」
高志「香り・・」
克己「えっ」
高志「いや・・でも・・」

高志、離した克己の体をもう一度抱きしめる。

高志「私に・・生きる価値があるんでしょうか・・」
克己「私も・・同じように迷って自殺しようとしたわ」
高志「克己さんが?」
克己「知ってる?詩織が、由里さんからもらったクローバーの葉にパパ、克己ママ、お兄ちゃん、しおりって書いてるの。四人が揃わないと幸せにならないって」
高志「いいんですか?こんな私で」
克己「私、香織さんから・・高志さんが本当はどんなに勇気があって優しい人か聞いています。香織さんが愛した高志さんを・・私も愛しています」
高志「ありがとう、一緒になってくれますか?」
克己「喜んで」

 克己、うれし泣きする。

○観音屋敷の玄関

 入ってくる藤崎の前に司葉が立ち塞がる。

司葉「何でお前が来る?」
藤崎「いや、高志君と克己さんの婚礼と聞きましたから」
司葉「そうだが、招待していない。二人とも呼ぶ身内がおらんし、親しい人間だけだぞ」
藤崎「知らないからそんな冷たい仕打ちをするんですよ、私こそ二人のキューピットなのに」

 通りかかった根津が近づく。

根津「誰がキューピーですか」
藤崎「根津君、君なら私と恵子君の果たした重要な役割を知っているだろう」
司葉「また、なにかしょうもない小細工をしたな」
藤崎「内緒なんですが、克己さんの寝枕に現れた香織さん、あれは恵子君なんですよ。私の薬で朦朧としている克己さんに私の演出、脚本、恵子君の名演技で暗示にかけました。今でも克己さんは、香織さんが自分の中にいると信じています」

 司葉、根津を見る。

司葉「そうなのか?ネズミ」
根津「まぁ、幾つかの疑問はありますが」
司葉「何だ?その疑問というのは」
根津「恵子は、天使役の翼や金の輪をくっつけて乗り込んでますが、香織さんは白装束だったと聞いてます」
藤崎「そこはそれ・・薬が効きすぎて・・」
根津「で、恵子によると、克己さんは、さかんにあーうーおーと呻いていたとか」
藤崎「あーうーおーって・・まさか・・」

 藤崎の表情が変わる。

根津「有吉が、次の日に変な夢を見たと怯えていました。ちなみに、彼の部屋は克己さんの向かいです」
藤崎「待て、待て、霊なんて信じない。行き違いはあったかもしれないが・・」
根津「それに、香織さんは克己さんに特製カレーを伝授しています。インスタントラーメンすら失敗する恵子には、いくらヤブサギ教授の克明なレシピがあっても無理です」
司葉「どんなカレーだ?」
藤崎「私が知るわけないでしょう・・」

 藤崎、不貞腐れる。

司葉「まぁいい、もう一つ祝いが重なっておる。上がれ」
藤崎「何ですか?もう一つって」
司葉「由里が妊娠した。間違いなく女の子だな」

 機嫌よさそうに根津と奥へ消える司葉。唖然としている藤崎。

藤崎「やっぱ、100万で突っ張るべきだったなぁ〜」

○ENDマーク